もう一つ、渡邊医師が重視する病気が誤嚥性肺炎だ。のどは空気と食べものの両方の通り道であり、声帯は状況に応じて閉じたり開いたりして、食べものが気管支や肺に入らないようにしている。

「声帯は半分が筋肉、半分が粘膜でできています。加齢や使う機会の減少で筋肉が痩せると、声帯の機能も落ちてきて開閉がうまくいかなくなります。その結果、誤嚥が増えて肺炎を起こしやすくなるのです」(同)

 がんや脳卒中などと違い、胃食道逆流症や誤嚥性肺炎は防げる病気だ。前者は暴飲暴食を控え、締め付ける洋服を着る機会を減らす、姿勢を整えることが重要。後者はまさに「声を鍛える」ことで予防できるという。

「歌い慣れた歌の高い音域が出にくくなった、息継ぎが増えたという人や、息を吸って『あー』と発声したときに15秒以上続かない人は要注意。声に何らかの問題があると考えられます。ちなみに正常値は成人男性が30秒、成人女性が20秒です」(同)

 では、声を鍛えるためにはどうしたらいいか。渡邊医師が勧めるのは、医学的に有効性が示されているトレーニングだ。

 やり方は簡単。口を小さくすぼめて「のー」と声に出し、途切れないように低い声から高い声を発声するというものだ。低音から高音を発声した後は、逆パターンで高音から低音を発声する。簡単なトレーニングだが、3カ月ほどで食事中にむせる回数が減ってくるそうだ。

 このトレーニングと併せて試したいのが、「お風呂カラオケ」。毎回、同じ歌を歌うのが“ミソ”で、トレーニングの成果を実感することができる。風呂ならエコーもかかるため声の状態をよく観察でき、湿度が高いのでのどを痛める心配もない。

「声を自動車に例えると、ガソリンが呼気、エンジンが声帯、ハンドルが舌やのどちんこ、唇です。いずれもしっかり動かさないとだんだん衰えていきます。特にコロナ禍で人と話す機会が減っている今、声帯の機能低下を防ぐことは重要です」(同)

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