倉橋教授は、感染者が多く、携帯電話の位置情報で人出の推移が分析できる東京都でシミュレーションを実施した。
AIが導き出した結果は驚くべきものだ(上のグラフ)。変異前のウイルスの感染者数は5月でいったん頭打ちとなるが、これと前後して英国型の感染拡大が顕著になる。東京オリンピックの開会式がある7月23日前後は、都内で1日あたり約2500人の感染者が出ると予想されている。五輪の開催にも、暗雲が垂れ込めそうだ。
だが、本当の危機は秋にやってくる。夏以降も感染者はさらに増え続け、ピークにあたる10月20日の都内の感染者数はなんと1日あたり5600人、重症者数は11月3日に640人。「第3波」のピークでも1日あたりの感染者数は2520人だったので、実にその2・2倍の規模だ。
東京だけでこの数なので、全国の1日あたりの新規感染者数もこれまでの最大値(1月8日、7844人)を上回り、1万人を優に超えることになるだろう。
ちなみに、この試算は感染者数が1日で1500人になった時点で、今年1月の緊急事態宣言時と同等の行動制限が入るシナリオを想定している。行動制限を行わない場合、10月20日時点の1日あたりの感染者数は22万9300人、11月3日に重症者数は2万9300人にまで膨れ上がる。倉橋教授は言う。
「英国型の感染を広げる力は従来株の5割増で想定していますが、日本でも欧米のような感染爆発が起きる可能性が示唆されています」
また、これらの試算はワクチンを1日あたり約7万人(都民人口の0・5%に相当)に打ち、8月12日に60歳以上の接種を終えるという前提だ。河野太郎ワクチン担当相は、ワクチンを「ゲームチェンジャー」と呼ぶが、比較的順調にワクチン接種が進んでも、コロナとの闘いは終わらないのだ。
実際、「ワクチン接種が進めば集団免疫を獲得できて、日常が戻る」という想定に否定的な見方は世界で広まっている。英国科学誌「ネイチャー」は3月18日、「新型コロナウイルスの集団免疫がおそらく不可能な五つの理由」と題した記事を掲載。現状のワクチン接種のペースではコロナの遺伝子変異のスピードに追いつかないことなどから、「新型コロナウイルスを打ち負かすまでの理論値まで到達するのは難しい」との見解を示している。