
先輩が後輩を教える「メンター制度」。その役目を逆さにしてみたら会社を変えるヒントが見えた。資生堂で実際に起きたこととは。AERA 2021年4月12日号から。
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「若手が教えるって? 俺が教えるんじゃないの?」
資生堂のベテラン社員は思わず耳を疑った。会社が「リバース・メンタリング」を始めようとしていた約4年前のことだ。
別のベテランも、若手から学ぶことなんて何もない。そう思っていた。だが、「メンター役」とされた入社数年の若手とペアになって、定期的に話してみると……。
「仕事柄、TikTokがはやっていることは押さえているけど、そういえば使ったことはなかったなあ」
デジタルでは若手から大きく後れを取っていたのだ。
そこで、若手と一緒にSNSのアプリに登録してみることにした。どんな投稿が出るのか。SNSに散らばる情報をどうやって集めるのか。自分で使ってみて、初めて肌で実感できた。そのうち「若い子はツイッターで何を見ているの」「SNSに名前とか載せているけど、個人情報を出して怖くないの」と素朴な疑問もわいてきた。
今では社内でSNSを活用することが決まった。コロナ禍の前から、会議もスカイプを使うようになった。
資生堂のリバース・メンタリングの担当者は、こう振り返る。
「当初、ベテラン勢に『何かわからないことはありますか』と尋ねると、『特にないよ』と答えが返ってきていました。ですが、若手と交流することで、新たな視点を得て、わからないことがわかったんだと思います」
■社長ら約200人参加
資生堂は、社長も含めた課長級以上の幹部社員が若手とペアを組む。ペアの交代は1年ほどで、昨年は200人近くが参加している。ITが生活に溶け込んでいる若手と組むことで、それに疎いベテランのDX(デジタル・トランスフォーメーション)を促す狙いもある。
「秘書やまわりがフォローしていた上役も、これからは自分でシステムを使ってスケジュール管理をして、マーケティングツールも使えるようになってもらいたい。消費者がデジタルを使うのに合わせて、上役も使いこなしてほしいのです」
と担当者は話す。