藤田医師が在住する上海でも中国政府の衛生当局の管轄のもとに市内2カ所のコロナ専門病院への集約が徹底されたという。そして、先述した中医学の「三方三薬」を参考に、上海の気候風土に合った中医学治療案も運用された。
清肺排毒湯が軽症から重症まで幅広く使われ、宣肺敗毒方は中等症に、化湿敗毒方は重症に対してというように処方を使い分けた。
三薬もしかりで、09年の新型インフルエンザのときに開発された金花清感顆粒は軽症、中等症に。連花清瘟膠嚢も軽症に。03年のSARSのときに開発された血必浄注射液は重症、そして重篤患者に対しても使われた。
■中国のガイドラインに「三方三薬」掲載
中医学では、今回も約2千年前に作られた『傷寒雑病論』を基本に、明清時代に大きく発展した感染症を治療する「温病学」の理論も参考にして処方を作り出した。
「解熱や咳、倦怠感など数々の症状に対して、中医学は中医薬や鍼灸(しんきゅう)などさまざまな治療手段が使われました。今回、コロナでは急激に患者さんが増えたので、コロナのために考えられるあらゆる処方を組み合わせて『三方三薬』という形で処方を組み立てたのです。もちろん重篤化するとECMO(エクモ)や人工呼吸器など西洋医学の出番になる場合もありますが、それでも中医薬を積極的に使っていますし、重症化させないように中医薬でかなり対応できたのです」(藤田医師)
この「三方三薬」の処方についての詳細は、中国の新型コロナウイルス感染症に対する診療ガイドライン(現在第8版)に掲載されており、日本感染症学会のホームページで誰でも閲覧することができる。
■予防から軽症、そして回復期、後遺症も中医学で対処
コロナ感染拡大から1年以上が過ぎたが、コロナ封じのための徹底した対策で中国は感染を抑え込んでいるという。
藤田医師は、中国が感染を抑え込んだ理由を次のように語る。
「無症状者と軽症者を徹底的に隔離したこと。そして、追跡調査、海外からの流入を防ぐ検疫と隔離も厳しくおこなわれ、PCR検査も誰でもすぐに受けられる体制が整えられたことです。感染リスクのある中・高リスクエリアと比較的安全な低リスクエリアを明確に分けることは常に重要です」
中国ではコロナに感染していなくとも、予防の意識が強い人は、中医にかかりアドバイスを求める。
「無症状や初期症状のコロナ患者に対しては、西洋医による対応は難しいので、そこをもっぱら中医が担当しました。食欲がない、倦怠感があるなどの不定愁訴にはすべて中医で対応です。コロナに対しての精神的な不安症状、回復期・後遺症に対しても中医の出番です。日本でもその部分はぜひ漢方で対処してほしいところです。日本にも立派に漢方の伝統があり、専門医の先生方がいるわけですから、漢方で介入しない理由はないと思います」(同)
(文/伊波達也)
※週刊朝日ムック「未病から治す本格漢方2021」より抜粋