日本国内では元号が変わり、株価が史上最高値を更新。歌謡曲・アイドル文化がどんどん衰退し、「個の意識」がどんどん高まっていった頃。世界では東欧の民主化が進み、最終的にベルリンの壁が崩壊。そんな激動の年の「超改造紅白」を観て私は、「これで日本の好景気は終わる」と確信したのを覚えています。たかが14歳の中坊でしたが、それぐらい世の中全体が大きな何かに急かされていたのを肌身で感じたのでしょう。

 そして2000年以降の現在。テクノロジーの進化のスピードがあまりにも速過ぎて、人間の価値観がそれに追いついていけない状態が続いています。それは違う意味での「焦り」に繋がり、求められていない変化ばかりを無理に生み出そうとする「ひとりよがり」な世の中になっています。

 先日「リポビタンDX」の新CMを観ました。ケイン・コスギが社交ダンスに興じながら「幾つになっても新しいことにチャレンジしていく。そんな自分でいたい」と流暢な日本語で囁いていました。まさに「変える必要のないものを変えてしまった」典型例。とにかくクリエイティブな「実感」が欲しくてたまらなかったのでしょうが、はっきり言って愚行です。

 もしくは、いよいよ「ファイト! 一発!」の相手が見つからなかったのかもしれません。世の中マッチョだらけなのに。おかしな話です。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2021年4月16日号

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