TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。早稲田大学の新入生の前に登場した村上春樹さんについて。
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4月1日、葉桜の早稲田大学戸山キャンパスは新入生でごった返していた。
実はこの日、文学部・文化構想学部の新入生にサプライズが待っていた。「現代日本文学を代表する世界的作家として……」と紹介され、早稲田大学芸術功労者表彰を受ける村上春樹さんが早稲田アリーナのステージに登壇したのだ。「こんにちは……村上春樹です」
マスクの下、心で歓声を上げる新入生たちの驚きが伝わってくる。角帽にアカデミックガウン姿で現れた<村上春樹>は早大生として誇りに思える作家だ。
「ご入学おめでとうございます。帽子を脱ぎますね。ちょっと重い」と角帽を脱ぐと、「いつも野球帽を被っているものだから(笑)」と言って、学生に向かって語りかけた。
「在学中に結婚し、それから仕事を始めて最後に卒業。順序が逆かも。あまりそういう生き方をおすすめはしませんが(笑)。でも、なんとかなるもんです」
早稲田に7年通い、在学中に国分寺でジャズ喫茶「ピーターキャット」を開いた話など、ユーモアを交えて語る春樹さんの口調は、『村上RADIO』そのものだった。そして、ガウンの裾から見えるコットンパンツとスニーカーがいかにも春樹さんらしい。
「50年以上前に入学したときは小説家になろうと思いませんでした。小説家は頭のいい人はなれない。頭じゃなくて、心で考えないと小説は書けません。秀才、優等生じゃない、頃合いというのかな。早稲田はそういう作業に適した環境じゃないか」
直筆原稿や資料、膨大なレコードコレクションの一部を寄託・寄贈する早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が、この秋、大隈講堂のあるキャンパスにオープン。これも新入生へのステキなプレゼントだ。ライブラリーのモットーは「物語を拓(ひら)こう、心を語ろう」