新作小説『オルタネート』は直木賞、本屋大賞にノミネートされ、吉川英治文学新人賞を受賞した。小説に舞台の脚本まで、旺盛な創作活動の背景には、「エンターテインメント」に対する情熱がある。AERA 2021年4月19日号から。
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——激動の一年だった。コロナ禍のために、昨年はライブや舞台は延期になったが、小説『オルタネート』は吉川英治文学新人賞を受賞した。
加藤シゲアキ(以下、加藤):年末には自分が新型コロナウイルスに感染したり、ネガティブなこともありましたが、すべてを糧にパワーにしていくしかない、と感じた一年でした。
『オルタネート』を書いたのは、コロナ禍の前でした。コロナ禍でデジタル化が一気に進み、『オルタネート』で描いたマッチングアプリの世界がより身近になっていった。良くも悪くも、結果として化学反応が起きたと思っています。
■たくさんの人に届ける
——『オルタネート』の発売は昨秋だ。コロナ禍に収束の兆しはなく、人がなかなか書店に足を運びづらい時期でもあった。
加藤:考えたのは、「書店をどう応援できるか」ということ。自分の本をきちんと読者に届けようとすれば、結果的に書店に還元されると思っていたので、「たくさんの人に届けよう」というのが一番のモチベーションでした。結果的に直木賞にもノミネートしていただき、吉川英治文学新人賞をいただきましたが、賞を意識したというよりは、「正しく届けたい」という気持ちが強かったんです。
——発売に際して、プロモーション動画をつくったり、作中に登場する料理のレシピカードを特典としてつけたり、さまざまな展開を試みた。
加藤:若い読者に興味を持っていただき、本を読むだけでなく、その先にある広がりや楽しさを感じてほしいと思っていました。それを「チャラい」と捉えることもできますが、エンターテインメントの世界にいる人間だからこそ、クロスオーバーさせていくことが自分の使命だろう、と。結果的に文学賞をいただけたのは、本当に不思議だなと感じましたし、自分が思っていた以上に作家の方々は広い視野で見てくださっていたのかもしれない、と勉強になりました。