——他人の意見を否定しない。その姿勢はどのようにして生まれたのだろう。
加藤:弁証法的な思考を持っているところがあって、AかBどちらか一方しか正しくないと考えるのではなく、「もっと包括的ないいアイデアがあるのではないか」と信じているんです。
長くグループで活動をしていると、意見が割れたときに「どっちの意見も理解できる」という時がある。そんなときは、「みんなでハッピーになれるアイデアはないか」と考えたい。論理でぶつかったとしても、どちらにも正義はあるということもあるから、みんながハッピーになるアイデアを生み出そうという努力をしていきたいんです。
僕が本を書くときも、みんなが楽しくアイデアが出せるといいな、と。それぞれに役割があったとしても、作品がよくなるのなら誰が何を言ったっていい、と僕は思っています。
——小説家をゲストに招いたバラエティー番組でMCを務めるなど、「文学」と世の中の橋渡しをする存在となりつつある。
■本は人生を豊かにする
加藤:文学界の中心にはいないけれど、何かをつなぐことはできると思いますし、それはとても面白いことだとも思うんです。言葉を選ばずに言うと、文学界はどこか閉じているようにも感じていて、エンターテインメントにも少なからず疎い部分があるように思う。それは業界の方々もわかっていて、どうにかブレークスルーをしたいと考えている。課題として多くの方々が考えているので、誰かが形にすることで一気に広がっていくと思います。
——はじめからいきなり橋渡しはできないと思いますが、本を書き続けて、周囲が認めてくださるようになったからこそ、お互いに面白いアイデアを出していけるようになった。
本は、人生を豊かにするものだと信じています。僕の作品を通して、過去の名作や文学といったものが、実は難しいものではなくて、身近なものなんだ、ということが伝わればいいな、と。それが、自分が文学の世界に飛び込んだ以上、背負っていく責務なのかなと思っています。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2021年4月19日号