<可哀想に 私が救ってあげよう>(鬼舞辻無惨/5巻・第43話「地獄へ」)

 累の両親は、子の鬼化を嘆き、親子心中を企てるが、累に殺害される。驚くべきことに、無惨はわざわざ両親殺害直後の累のもとを訪れ、「全ては お前を受け入れなかった親が悪いのだ」と累を励ましている。自分の鬼化の経緯に重なる部分もあったのだろう。鬼の仲間を自分の親兄弟に見立てて「家族ごっこ」する累の言動を、無惨はとがめることもない。わが身とよく似た境遇の「子ども」を救うのは、病と死の匂いに満ちた、無惨の「過去の記憶」に導かれている。

■魘夢を殺さなかった理由

 累の死にまつわる、「下弦の鬼」の処罰では、「下弦の壱」魘夢(えんむ)だけが生き延びている。当初、無惨は魘夢も殺害するつもりだった。だが、他の鬼が惨殺される姿を見た魘夢は「私は夢見心地で御座います」と述べる。その恍惚とした様子を見て、無惨は機嫌を直す。

<気に入った 私の血をふんだんに分けてやろう>(鬼舞辻無惨/6巻・第52話「冷酷無情」)

 与えられた無惨の血が多すぎて、苦悶する魘夢。これを見て、無惨は心から楽しそうに、魅惑的なほほ笑みを魘夢に投げかける。いかにも残虐で「鬼らしい」魘夢の言動もまた、無惨にとって好ましい性質なのだ。自らの苦痛すらも、陶酔の材料にするような人物は、無惨の美意識に合致する。鬼の玉壺も、内面では共通点があるが、相貌に人間味や美しさがなく、無惨は関心を示さない。

■誰よりも美しい鬼・堕姫  

 残虐な内面に反して、鬼舞辻無惨の顔は数百年の時をへて、なお美しい。姿、声、身のこなし、いずれをとっても「美貌の鬼」であり、手下の鬼だけでなく、人間をもだまし、惹きつける要素が多分にある。そんな美しい無惨が、外見を褒めた鬼がいる。「上弦の陸」堕姫(だき)である。

<お前は誰よりも美しい>(鬼舞辻無惨/9巻・第74話「堕姫」)

 堕姫のもとにきた無惨は、優しく彼女の顔を手で包み込んで、お前は特別な鬼なのだと、甘くささやく。堕姫の戦闘力にやや問題があることは、無惨も認識している。それでも、多くの人間を惑わす堕姫の美貌は、無惨のお気に入りなのだ。

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童磨よりも猗窩座を重用