タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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今からでもやめる決断を。東京オリンピック開催まで100日を切りました。菅義偉総理大臣は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」と位置づけていますが、日本のワクチン接種率は4月5日時点で0.76%。大多数の人は、自分がいつ接種できるかわからない状況です。各地で感染が再拡大し、変異株の感染者も増えているのに、7月までに感染終息を宣言できるとはとても思えません。
世界的なワクチンの供給不足や不均衡が深刻な問題になっています。「オリンピックは人類がコロナウイルスに打ち勝った証し」と打ち出しても、共感が得られるはずもありません。世界中で感染者が出ているにもかかわらず現実逃避の「祭典」を強行すれば、パンデミックで傷んだ人々の感情を逆なでするでしょう。
7月には国内各地で選手団のキャンプが予定されています。ワクチンが行き渡らない中での実施では選手たちも受け入れ自治体も安心できません。オリンピック関連の人の動きの中で感染者が出れば、ウイルスに打ち勝った証しどころか、一層感染を広げた愚行として歴史に残ることになるでしょう。それで失われる命もあるかもしれないということを重く考えてほしいです。
自民党の二階俊博幹事長は15日にCSの番組収録で、感染がさらに拡大した場合の五輪開催について「とても無理と言うならやめないといけない」と述べたものの、直後に釈明し、「ぜひ成功させたいという思いだ」と強調しました。
もう時間がありません。先延ばしにせず、是非決断を。「感染拡大を止め、一人でも多くの命を救うことが重要だと判断した」と開催中止のメッセージを出せば、日本に対する信頼は増すはずです。選挙をにらんで算盤(そろばん)を弾くのなら、有権者は目くらましのお祭りではだまされないと気づくべきです。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2021年4月26日号