塩谷舞(しおたに・まい)/1988年生まれ。文筆家。ニューヨーク、ニュージャージーを拠点に執筆活動を行う。2017年に自身が立ち上げたオピニオンメディアmilieuやnote定期購読マガジン「視点」でエッセーを更新中(撮影/写真部・加藤夏子)
塩谷舞(しおたに・まい)/1988年生まれ。文筆家。ニューヨーク、ニュージャージーを拠点に執筆活動を行う。2017年に自身が立ち上げたオピニオンメディアmilieuやnote定期購読マガジン「視点」でエッセーを更新中(撮影/写真部・加藤夏子)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 会社員時代から、WEBメディアの執筆、企業の広告企画、SNSマーケティングに多く関わり、「バズライター」の異名を取ってきた塩谷舞さんが、当たり前に生きるための言葉を取り戻そうと執筆してきたものをまとめたエッセー集『ここじゃない世界に行きたかった』。note等で大反響を呼んだ文章を大幅に改稿し、書き下ろし6編を加えた。環境問題、大統領選など世界の諸問題への視点から自身の生活への美意識まで幅広いテーマを扱う。塩谷さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 20歳くらいから自分のホームページを持ち、カルチャーメディアを運営するITベンチャーで社会人としての歩みを始めた塩谷舞さん(32)は、フリーランスになってからもずっとネット上を発表の場にしてきた。本書はそんな塩谷さんの初めての「紙の本」だ。

「インターネットは居心地のいい場所でした。読者の方も好意を持って読んでくださる方ばかりですし、そこから出る必要をあまり感じなかったのです。でも、コロナになって家族で見ている世界が異なることに愕然として、私がニューヨークにいたということもあるのでしょうが、母は薬剤師としての視点、父はマスメディアからの情報、姉は4歳の娘の子育てをする立場と、意見がバラバラで。見ているメディアが違うと、同じ時間を過ごしてきた人でも思想が分断されてしまう。だから今回はインターネットでは絶対に届かない人に何とか届けたいと頑張って書きました。本を読んで親はやっと理解できたと言っていました」

「バズライター」という異名をとっていた塩谷さんだが、本書では違う表情を見せる。扇情的でも、わかりやすくもない。ただ、日々の生活の中で思うことを誠実に綴る。世界情勢を語るにしても自分の生活と地続きであることを決して忘れない。本人は自己紹介のつもりで書いたと語るが、それは塩谷さんが当たり前に生きるために自分の言葉を取り戻してきた軌跡でもある。

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