ただ、リュウジさんがどんなに入居者を喜ばせても、給料は上がらなかった。高齢者を満足させる一方で、勤務評定をする上司の目線では事務が落第点なので、評価はプラスマイナスゼロ。たっぷり残業をしても年収300万円のままだった。
 
 リュウジさんは介護の仕事に就く前、イタリア料理店で働いていた時期もある。

「僕は高校中退のフリーターでした。千葉県内のホテルに4年勤めましたが、2011年の東日本大震災のあと、閉鎖されてしまいました。その後、料理が好きだったのでコックをやろうと思い、イタリア料理店に入りましたが、3カ月で辞めました」
 
 イタリア料理店の労働環境は「地獄」だったという。ランチタイムの開店に合わせて朝9時出社。夜11時から片づけはじめて帰るのは午前0時を回り、休みは月3回。

「お客が1日100人を超える繁忙店でした。毎日同じものばかり作って、家に帰ると疲れ切っていて……。飲食店で働き、生活を店に合わせると、自分の好きな料理を作る時間がなくなることに気づきました」
 
 店でのリュウジさんへの評価は高く、月20万円でスタートした給料は1カ月で5万円も上がった。「すぐに店を任せられるようになる」とも言われた。だが、リュウジさんは「このままでは料理が嫌いになってしまう」とイタリア料理店を去った。
 
 飲食店の新人は多忙を極める。掃除からはじまり、下仕事がほとんどの場合も多い。この現状にリュウジさんはピシャリ。

「調理場の人が修業と称して新入りに面倒な雑用をやらせているだけなのが実態ですよ。料理人に修業なんて必要ない」
 
 上の者が正しい知識を教えてあげれば、きつい「修業」はなくなり、定着率が低い飲食業の労働環境も少しは改善されるかもしれない。なんとも小気味いい論。

 リュウジさんは以前からネットに自分のレシピをアップしていた。料理研究家として名を売るきっかけとなったのは「大根のから揚げ」だ。

 白だしで煮た大根に片栗粉をまぶして揚げるだけ。外はカリッと、中からジュワッとうま味がほとばしる。身近な食材を使った、意外でおいしい料理を紹介する「リュウジスタイル」の原点だ。

「大根のから揚げに賭けてバズらせようと思ったわけではないのに、驚くほど反応がありましたね。ツイッターのフォロワーが100人から一気に2000人、3000人と増えていきました」
 

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