20代後半にはフリーのコピーライターとして1000万円ほどの収入があったが、当時の関心は雑誌に移っていた。
「あるPR誌の仕事の縁で、コラムニストの中野翠(みどり)さんと知り合い、中野さんの知人の出版社の方から本を書かないかと勧められました。そのときも『売れる本を書くために』と、ホテルに自腹で缶詰めになって執筆しました。当然、原稿料が振り込まれる前です」
ホテルに缶詰めになったからといって売れる本が書けるとは限らないが、何かが宿るのかもしれない。林さんのステップアップの陰には、勝負時に惜しまずお金を使う大胆さがある。最近は自腹で取材することも増えたという。
「会社持ちの店で編集者も同席すると、相手は話しにくくなることがあります。だったら、自分で店を選び、私がお金を出して1対1でじっくり話を聞いたほうがいい」
最近の一番の贅沢(ぜいたく)は現代アート。かなりの金額だった。
「絵を買ったら普段の銀行口座にお金がなくなりました。秘書から『文庫本の印税が入るから大丈夫そう』と言われたので、なんとかなるかと(笑)」
言いながら、うふっと笑う顔がチャーミング。絵は自宅に飾ることが目的で、値上がり目当てに投資することは一切ない。
「純粋に楽しむための絵です。自分が稼いだお金で、少し贅沢な買い物をする。私の若い頃はバブル景気を引きずっていて、男性に頼るのをよしとする雰囲気がありました。時が経って、今は性別を問わず『自立できていないのは格好悪い』時代です」
(取材・文/安住拓哉、編集部・中島晶子、伊藤忍)
※アエラ増刊『AERA Money 2021春号』より抜粋
