高次脳機能障害を抱える俳優の柳浩太郎さん(写真=事務所提供)
高次脳機能障害を抱える俳優の柳浩太郎さん(写真=事務所提供)
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撮影前、他のスタッフと打ち合わせをする柳さん(写真=事務所提供)
撮影前、他のスタッフと打ち合わせをする柳さん(写真=事務所提供)

「高次脳機能障害」という脳の障害と向き合いながら活動する俳優と、ともに歩む所属事務所の社長がいる。この障害はとても複雑で、周囲に理解されづらく、当事者が孤立しがちだ。2人も最初から信頼関係を築けたわけではなかった。どんな経緯があって「二人三脚」で歩むに至ったのか。それぞれの思いを聞いた。

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*  *  *

「柳さん、休憩入れてバナナ食べようか」
「あれ?僕、言葉数が減ってきてますか?」
「減ってきてないけど、ちょっと休んでもいい頃かなって」
「じゃあ、そうしましょう」

 会話の主は、俳優の柳浩太郎さん(35)と、所属事務所の社長でマネージャーでもある大石薫夏さん。記者が2人にインタビューを始めて、1時間たった頃のやりとりである。たわいのない会話に見えるが、実は2人にとっては深い意味がある。

 柳さんは、2003年、初の舞台でミュージカル「テニスの王子様」(テニミュ)の主役、越前リョーマ役に抜擢された。だが同年12月、稽古の帰りに交通事故に遭い頭を強打。幸い一命はとりとめたものの、「高次脳機能障害」という複雑な障害を抱えた。

 高次脳機能障害とは、簡単に言えば「病気の前は当たり前だったことが、当たり前にできなくなる障害」である。事故による脳の損傷や、脳卒中が主な発生要因とされる。外見では気付いてもらえないことが多く、「見えない障害」とも呼ばれている。

 症状や障害の重さは人により異なるが、記憶力や思考力、物事の理解力が低下して、新しいことに取り組むことが難しくなる。脳が「情報過多」の状態が続くため、とても疲れやすく、感情のコントロールが難しくなってしまうのが主な特徴だ。

 職場であれば、ゆっくり作業をしたり、連絡事項は口頭ではなく簡潔な文章にして伝えるなど、症状に合わせた工夫をすれば仕事ができるケースもある。だが、それ以前に障害があることすら知ってもらえず、「やる気がない」などと人間性の問題として誤解され、集団の中で孤立してしまうことも少なくない。

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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「終わりがない感情」