これまで順調に景気回復してきたが、大幅な株価の乱高下で騒がれているアベノミクス。それに加え、TPP参加や改憲などを目指している安倍政権だが、早稲田大学国際教養学部教授の池田清彦氏は警鐘を鳴らす。
* * *
ここ数年の日本の政治家の資質の劣化は目を覆うばかりである。橋下の「慰安婦は必要だった」あるいは「米軍はもっと風俗業を活用してほしい」といった発言が、韓国ばかりでなく、アメリカ政府高官の怒りを買っているようだ。こういう人物が憲法改定を声高に叫んでいる国の将来は、いったいどうなるのでしょうね。憲法を改定して、国家による管理売春を正当化する法律でも作ろうというのかもしれないな。
安倍政権はTPPに参加してアメリカの歓心を買う一方で、憲法を改定して、国民を意のままに操れるようにしたいらしい。アメリカ国内では、安倍政権はウルトラナショナリズム(超国家生義)的懸念があるとの見方があるそうだが、何のために憲法を変えたいのか、私には今ひとつよくわからない。本当にウルトラナショナリズム的に、国民を全体主義国家の奴隷にしたいのか、それとも、日本国民をアメリカに売り渡すために憲法を変えたいのか。いずれにしても、日本国民にとっては良いことは全くないことは確かだ。
「民主主義は最悪の政治形態だ。これまでに試みられたすべての政治形態を除けばね」とはウィンストン・チャーチルのコトバだが、日本国民は、このまま唯々諾々と安倍政権に騙されて、憲法改定を許してしまうのだろうか。日本経済はアベノミクスで実体の伴わないバブル景気に沸いているが、アベノミクスは、円安を許してつかの間の景気浮揚で日本国民を酔わせて、アメリカの多国籍企業の意のままになる憲法に変えさせようとの陰謀なのかもしれない。それとも安倍は本当に、米・中なにするものぞという憲法を作りたいのかしら。どちらにしてもバカげていることは確かだ。
日本はエネルギー自給率わずか4%、食料自給率もカロリーベースにして39%しかないのだから、世界中の国々との貿易を通して、エネルギーや食料を調達する以外に、現在の生活水準を維持する術はないのだ。ウルトラナショナリズムの憲法を作って為政者が威張ったところで、他国にそっぽを向かれては国民が飢えて北朝鮮になってしまうし、多国籍企業の奴隷になるのもうれしくない。
アメリカは食料自給率130%、シェールガス革命によりエネルギー自給率ももうすぐ100%、2030年には純エネルギー輸出国になるという。こういう国だけが鎖国をしても生きていける。国力とは究極の所、エネルギー自給率なのだ。改憲してもエネルギー自給率は増えないよ。
※週刊朝日 2013年6月14日号