加藤氏は、主に8つの機能に分かれた「脳番地」という概念を提唱している。目で見た情報を集積する「視覚系脳番地」のほか、聴覚系、感情系、記憶系、伝達系、運動系、思考系、理解系がある。前述の予測行為は、理解系の脳番地で保持された情報をもとに、思考系の脳番地が働くことでなされる。



「受け身の姿勢よりも、『次はこうじゃないか』といったように、自分で主体的に恐怖感を作り出す予測行為の方が、たくさんの脳番地を刺激するので効果的なのです」

「仲間に憑依」「テレビ画面から飛び出す霊」「死を招く携帯の着信」といったように、ホラー映画はあの手この手を使い、予想外の展開で恐怖をかき立てる。

「心霊現象をはじめ、人知を超える現象は、人間の想像力をかき立てます。ステイホームで生活がマンネリ化して刺激が乏しくなりがちな中で、ホラーは普段と違う角度から脳を刺激する。日常で使っていない脳番地を活性化させることができるので、認知症予防にもつながりやすい」
 
 ただ、ひとたび認知症を発症してしまうと、予測行為や感情の働きが鈍くなり、ホラー映画を楽しむことが難しくなるという。

「つまり、ホラー映画が理解できるかどうかは、自分が認知症の症状を有しているか否かを判断する一つの指標になるでしょう。認知症が進むと、他者からの感情の受け取りができなくなったり、自分の感情が分からなくなったりします。定期的にホラー映画を見ることによって、自分がいま、楽しめているかどうかを意識してみると良いと思います」
 
 ひと口にホラー映画といっても、作風や構成は千差万別。加藤氏は認知症予防に最適な「ストーリー構成」についても教えてくれた。
 
「ストーリー全体を通して、徐々に恐怖が高まっていくような構成であれば理想的です。同程度の刺激が続いても、脳は"変化がないもの"とみなしてしまいます。脳は『差』によって変化を感じるものなので、前のシーンよりも脳に強い刺激を与えないと、感情系が揺さぶられにくい。なので、冒頭から極度に強いインパクトがあるような作品は、その後のシーンで得られる刺激が弱まり、予防に期待できる効果も薄まってしまうと思います」


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