男性にとって悩ましい問題である薄毛。世の中にはこれまで、この薄毛対策をうたった商品が多く登場してきた。しかし、その効果のほどはいまひとつはっきししないものが多かった。専門家によると、その理由は次のようなところにあるという。

 この業界に出回る薄毛対策は、いわゆる「エビデンス」(効果の医学的根拠)に乏しいものも多く、玉石混交状態だった。東京医科大学の坪井良治主任教授(皮膚科学)はその理由のひとつに、カツラや植毛以外の薄毛対策は治療効果がわかりにくいことをあげる。

「髪の毛は1センチ伸びるのに1カ月かかり、おおまかな結果が出るのにも半年から1年かかる。わざわざ写真を撮って見比べる人もいないでしょう」

 また、薄毛を気にする人の多くは明確な症状があるというよりは、「他の人よりも薄いのでは」というメンタル面での不安要素が大きい。そのため、少々エビデンスが薄い治療法でも市場に定着しやすいのだ。

 抜け毛のメカニズム解明に携わった大阪大学医学部の板見智教授(皮膚科学)は2009年に出版した『専門医が語る 毛髪科学最前線』の中で、「皮脂が詰まるとハゲが進む」「血行がよくなると毛が生える」といった「通説」について研究成果をもとに批判を加えている。東京メモリアルクリニック・平山の佐藤明男院長は、「男性型脱毛症(AGA)は発症5年以内に手をうったほうがいいが、治療情報はよく見極めるべき」と語る。

 ここ10年で、そんな群雄割拠の薄毛業界に大きな変化が訪れた。それまではテストステロンなどの男性ホルモンが原因らしいとまでしかわかっていなかったAGAのメカニズムが詳しく分かるようになり、それに沿った治療法や治療薬が確立したのだ。

 そして10年、日本皮膚科学会が「男性型脱毛症診療ガイドライン」を策定した。AGAに効くとされてきた薬や治療法10種類を取り上げ、それぞれのエビデンスを確認してA(行うよう強く勧められる)~D(行わないよう勧められる)の5段階に分類。発毛効果が確認されたミノキシジルの外用と抜け毛促進につながるジヒドロテストステロン(DHT)の産生を阻むフィナステリド内服の2種類のみをA判定とした。

AERA 2013年6月10日号