とにかく「早く」「強く」と、わが身をかえりみず、あらゆる苦痛に耐え、生き急ぐ無一郎の様子は、痛々しくすらある。

■「無表情な顔」と激しい心

 異例の短期間で無一郎は「柱」まで上りつめた。それは、「血」によって継承された才能の恩恵だけではなく、驚異的な訓練によって獲得した成果だった。

 刀鍛冶の里では、「上弦の伍」の鬼・玉壺の攻撃で、無数の毒針が無一郎の全身を貫いた。しかし、激痛は精神力で抑え込み、幼さの残る美しい顔は、無表情のままだ。無一郎にまつわる数々のエピソードが示すのは、とにかく彼が我慢強く、弱音を決して口にしないということだ。

 数々の死闘をくぐり抜けた無一郎の最終決戦の相手は、「上弦の壱」と呼ばれる鬼・黒死牟(こくしぼう)だった。この黒死牟の正体は、鬼殺隊史上、継国縁壱に次ぐ実力者と言われた、彼の兄・巌勝(みちかつ)である。無一郎は「縁壱の子孫」として入隊しているが、縁壱には子はおらず、実は無一郎はこの巌勝の直系子孫だったのだ。

 祖先との対決。ここでも、無一郎は、「肉体的成熟」と「戦闘経験値」の壁にぶつかる。巌勝=黒死牟の使う「月の呼吸」は、なんと初太刀で無一郎の片腕を斬り落としてしまう。黒死牟戦では、ポーカーフェイスだった無一郎の顔に苦悶の表情が浮かぶ場面が増えていく。

■壮絶な無一郎の戦闘

 剣士にとって戦闘の要といえる腕を失っても、無一郎は戦いをやめない。

<素晴らしい…腕を失ってすぐに止血 そこからさらに攻撃をしようという気概>(黒死牟/19巻・第165話「愕然と戦慄く」)

 戦闘意欲を失わない無一郎を止めるため、黒死牟は無一郎の肩に刀を貫通させ、建物の柱に突き刺すが、無一郎は激痛に耐え、肩から刀を抜き、戦線へと戻る。死に至るほどの大量失血にあっても、黒死牟の攻撃スピードについていく無一郎。どんな傷をおっても無一郎は戦いをやめない。心は折れない。それは、兄を亡くした際に感じた猛烈な怒りのためだった。

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無一郎にとっての「幸せ」とは?