「霞柱」・時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)
「霞柱」・時透無一郎(画像はコミックス12巻のカバーより)

鬼滅の刃』に登場する、鬼殺隊トップクラスの戦闘力を誇る「柱」たち。9人の「柱」のうち、時透無一郎は弱冠14歳にして「霞柱」として名を連ねる。クールで無表情な無一郎は、淡々と剣技を磨き、時には仲間にすら冷淡さをみせる。鬼との戦闘に臨む無一郎の精神力は並みはずれており、どんな痛みにも一切の弱音を吐かない。だが、繰り返し描かれる彼の負傷は、あまりにもむごたらしく目を覆うばかりだ。ポーカーフェイスで痛みに耐えて戦う14歳の少年の内には、抑えきれない熱き思いがあった。【※ネタバレ注意】以下の内容には、既刊のコミックスのネタバレが含まれます。

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■最年少剣士・時透無一郎の「天才」エピソード

『鬼滅の刃』の鬼討伐組織「鬼殺隊」隊士たちは、比較的年齢が若い。鬼殺隊の実力者「柱」でも、最年長の岩柱・悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)が27歳、音柱・宇髄天元(うずい・てんげん)で23歳、そのあとは21歳の風柱・蛇柱・水柱がつづく。しかし、霞柱の時透無一郎(ときとう・むいちろう)は、なんと14歳という若さだ。隊士としては珍しい年齢ではないかもしれないが、歴代「柱」から考えると、この才能の早熟さは抜きんでている。

 宇髄天元が「遊郭の鬼」から「お前は選ばれた才能の持ち主だ」と言われた時、無一郎のことを引き合いに出して、自分より才能のある者がいると答える場面がある。無一郎はたった2カ月の訓練で「柱」になっており、宇髄ですら、無一郎の才能に感嘆している。

 さらに、無一郎は自らが志願したのではなく、鬼殺隊の長・産屋敷耀哉(うぶやしき・かがや)の命によって、鬼殺隊に「スカウト」されていた。異例の入隊エピソードである。これは、無一郎が鬼殺隊の歴史に名を残す剣士・継国縁壱(つぎくに・よりいち)の子孫だったからだ。

 このように、無一郎の才能の底には、「血の継承」がほのめかされている。しかし、それだけでは説明がつかないほど、無一郎が強くなったスピードは早い。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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