御年80歳、世界最高峰であるエベレスト登頂を成し遂げた冒険家の三浦雄一郎氏に国民栄誉賞を授与するか、授与しないか。安倍政権が苦慮した。
火付け役は、下村博文文部科学相(59)だった。登頂成功の翌日、5月24日の記者会見で「国民に感動を与えるとともに、高齢者の方々は『自分もまだまだこれからだ』とやる気をもらった」と祝福。さらに「70歳のときに登頂に成功し、当時の小泉首相が総理大臣表彰を授与している。今回はそれ以上にあたるので、菅官房長官と相談したい」とぶち上げた。
同日午後、菅義偉官房長官(64)も「国民に深い感動を与えたのは事実。(授与は)総理の判断だ」と呼応。内閣府によれば「それ以上」の賞は国民栄誉賞以外にないとのこと。すんなりいくかと思いきや……。
「安倍さんは、『政治的利用だ』と批判された前回の国民栄誉賞をめぐる騒動を気にしているんです。だから最初から乗り気ではありませんでした」
こう打ち明けるのは安倍首相周辺。5月5日、東京ドームで長嶋茂雄氏と松井秀喜氏に国民栄誉賞の授与式を行ったのは記憶に新しいところ。安倍晋三首相(58)は背番号「96」で登場。本人は「第96代首相だから」と主張したが、7月の参院選で争点にすると意気込んでいた憲法96条の先行改正を、広くアピールするのが狙いと指摘された。
「晴れ舞台を使ってのパフォーマンスだと結構批判されましたからね。それに、各種世論調査で先行改正があまり賛同を得られていないことがわかった。また国民栄誉賞の騒ぎになって、前回の騒ぎが蒸し返されるのはちょっと……という雰囲気となったんです」(同前)
実際、国民栄誉賞の所管である内閣府には「検討するよう指示は下りてこなかった」(関係者)という。
その後、政権内では「違う賞を」と、「厚生労働省に高齢者の偉業をたたえる『何とかエイジレス賞』や『何とかエルダー賞』をつくっては」などと検討されたとか。だが授与するのが厚労相では内閣総理大臣表彰を超えられない。そこで本人の名前を冠した「三浦賞」創設が落ち着きどころになりそうなのだという。
「この時期になぜ」と疑問符がつきかねない前回の授与騒動がもとで、直後の「傘寿の偉業」に授与が見送られるとは、何とも皮肉な結果となった。
※週刊朝日 2013年6月14日号