「考えられるカードは再度の現金給付くらいしかありません。それで戦えるかどうか。消費税の一時凍結くらいインパクトのある政策を打ち出せるかと言えば、今の政権にはできない。それほど五輪・パラリンピックを失うダメージは大きいのです」

 厄介なのは五輪・パラリンピック中止の責任を取れと党内で「菅降ろし」が始まるケースだ。結果、総選挙前に菅首相が政権を放り出し、自民党総裁選という可能性も、なくはない。しかし、現実的には肝心の「ポスト菅」が不在。次期総選挙は政権選択選挙にもなり得ることから、自民党関係者も頭を抱える。

 名前が挙がる筆頭は岸田文雄元外相だ。しかし、4月の参院の広島再選挙で敗北した経緯もあり、今、「ポスト菅」に名乗りを上げても支持する者がどれだけいるかは未知数だ。自民党最大派閥の細田派出身の安倍晋三前首相と、麻生派の麻生太郎財務相は、岸田氏を担ぎ次期政権に一定の影響力を持つことをもくろんだと噂されたが、それも難しくなった。

■消去法で残る河野氏

 石破茂元防衛相、野田聖子元総務相、小泉進次郎環境相と挙がる名前はあるが、政権選択選挙の「顔」になるまでの決定打になるとは言いがたい。そうなると、消去法で残るのが河野太郎氏ということになる。ただ、自民党内の評判はイマイチだ。自民党幹部の一人は河野氏についてこう評する。

「とにかく何を考えているか分からない一匹おおかみ。麻生派に所属しているとはいえ、派閥に媚びを売ることもない。発信力はあるだけに担ぐとなると一番面倒だ」

 菅首相は世論調査でも国民の7割以上が五輪の「中止・再延期」を求めている状況の中、「開催」を強行するのであれば、その理由を国民に対してしっかり説明するべきだ。緊急事態宣言も5月31日まで延長されることになった。各地で医療が逼迫し、変異株の猛威が日本列島を襲っている。国民の命よりも五輪・パラリンピックを優先する理屈は今、どこにも見当たらない。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年5月17日号より抜粋

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