TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。筒美京平さんと松本隆さんについて。
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「ぼくが京平さんからもらったものはありったけの愛。彼ほどぼくの言葉を愛してくれた人はいない。ありがとう、京平さん」
これは昨年10月、作曲家・筒美京平さんの訃報に寄せた松本隆さんの言葉だ。彼らは『木綿のハンカチーフ』『Romanticが止まらない』など、多くのヒット曲を時代に刻んできた。松本さんはその関係を「先輩と後輩であり、兄と弟であり、ピッチャーとキャッチャーであり」とたとえている。
京平さんからのありったけの愛──。切なく美しい追悼の言葉が忘れがたく、いつか二人の作品を生で聴きたいと思っていたが、「ザ・ヒット・ソング・メーカー 筒美京平の世界 in コンサート」が東京国際フォーラムで開かれた。
麻丘めぐみ、稲垣潤一、太田裕美、郷ひろみ、斉藤由貴、C-C-B、ジュディ・オング、野口五郎、NOKKO、平山三紀、松崎しげるなどが登場し、3千曲を世に送り出した人生に相応(ふさわ)しい壮大な試みだった。
『ブルー・ライト・ヨコハマ』『わたしの彼は左きき』『真夏の出来事』『魅せられて』『男の子女の子』『また逢う日まで』……。船山基紀音楽監督のゴージャスなアレンジは、往年の「夜のヒットスタジオ」や「サウンド・イン“S”」を思い起こさせ、少年の頃に見たテレビ黄金時代の懐かしい幻影のようにも思えた。
松本隆作詞の『木綿のハンカチーフ』を太田裕美が歌うとステージの雰囲気がすっと変わり、観客が身を乗り出した。それはまさに、筒美京平と松本隆という“新しい才能”が出会い、日本のポップスをがらりと変えた瞬間に似ていた。
「日本語でロックを歌うという明確な“意志と理由”のあるバンド」(松本隆「文藝春秋」2021年5月号)、はっぴいえんど出身の松本さんを仕事場に呼んだのが筒美さんだった。24歳の松本さんは自分の歌詞を褒める「帝王」を前にただ呆然としていたというが、松本さんがしたためた恋人の手紙の歌詞に筒美さんがメロディをつけた『木綿のハンカチーフ』は150万枚を超える大ヒット。「京平さんはすでに歌謡界の帝王だったけど、僕から見るとそれは“旧”歌謡界。僕はサブカルチャーの出身だから、京平さんにとってはある種の異物だったと思います。でも異物なものが掛け合わされたからこそ、それまでにない新しいものが生まれた」(同前)