「記憶に残る広告で重要なのは、驚きと新しさ。そのため自由な発想を心がけています。どこかで見たことのあるようなもの、他社でも成立しそうなものは作りません」(米山さん)

 日清食品の社内には「カップヌードルをぶっつぶせ!」というスローガンがある。85年に父・百福さんの後を継いだ現・日清食品ホールディングスCEOの安藤宏基さんが打ち立てた。「創業者が発明した商品に安住することなく、超える商品を生み出せ」というイノベーション・スピリットが息づいているのだ。CMから受ける「カップヌードルらしさ」には、そうした精神も反映されている。

■「3分」の魔法

 食べるまで「3分待つ」という行為も大きいようだ。

「カップ麺の記憶は深いところに刻まれていました」

 そう語るのは『偏愛的インスタントラーメン図鑑』の著者で、専門店も展開する、大和イチロウさん(52)だ。大和さんは高校生のとき交通事故にあい、記憶喪失に陥った。入院中の病院の売店で、最初に手にとったのがカップ麺だった。

「両親が共働きだったので、子どものころ銭湯を営んでいた祖父の家に預けられることが多かったんです。当時、銭湯や酒屋のまわりにはカップヌードルの販売機が多くありました。コンビニのまだない時代で、夜遅くまで営業している場所の近くに設置されていたようです。祖父の所に行っては、ねだって食べていました」(大和さん)

 大和さんは医師の勧めもあり、大好きだった即席麺を「1日1麺」食べ続けることで記憶を取り戻していった。今も1日5麺は食べているという。

「カップヌードルには、ノーベル賞級の発明が詰まっています。『3分』という待ち時間もその一つです」

 と大和さんは言う。

 人は食事をするとき、脳内に味の記憶を呼び起こす。これまで待ち時間が1分のカップ麺も発売されたが、定着しなかった。3分は短すぎず、長すぎず、絶妙な時間なのではないか、と大和さんは見ている。

「カップヌードルを食べたいと思って、手にして。湯を注ぎ、ワクワク期待していると3分後にできあがる。ふたを開けると、いつもの香りと温かさがたちのぼってきて……。おいしくないわけがありません」

(編集部・石田かおる)

AERA 2021年5月24日号

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