佐藤可士和(さとう・かしわ)/クリエイティブディレクター。カップヌードルミュージアムのトータルプロデュース、ユニクロ、楽天グループのブランド戦略などを手がける(写真:長山一樹)
佐藤可士和(さとう・かしわ)/クリエイティブディレクター。カップヌードルミュージアムのトータルプロデュース、ユニクロ、楽天グループのブランド戦略などを手がける(写真:長山一樹)
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 カップヌードルの「イノベーションの鍵」は何か。カップヌードルミュージアムをプロデュースした、クリエイティブディレクターの佐藤可士和さんにAERA 2021年5月24日号で話を聞いた。

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 日清食品の創業者である安藤百福さんは、世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」と、世界初のカップ麺「カップヌードル」を発明しました。鍵となるのは「視点」の持ち方です。

 カップヌードルの開発は、海外を視察した際、アメリカ人がチキンラーメンを紙コップに入れ、フォークを使い食べる姿を見たのが起点になります。ポイントは、アメリカ人の食べ方を見て「アメリカ人はわかっていない。ラーメンは箸とどんぶりで食べるものだ」と捉えなかったことです。「フォークで食べられ、どんぶりに代わる容器が必要」とユーザー視点に立ち発想した。

 カップヌードルの開発過程では多くの課題がたちはだかりますが、ここでも「柔軟な視点」が発揮されます。麺が運搬中の揺れなどで砕ける課題に対しては、「麺を底につけず、容器の中で宙づりにしてはどうか」と「中間保持法」を考えつきます。課題が解決しただけでなく、湯が底の方からも浸透し麺の戻りが良くなるメリットも生まれました。

 さらに麺を容器の中間に水平に入れる工程が難航すると、カップに麺を入れるのではなく、麺にカップをかぶせてひっくり返す、文字通り「逆転の発想」をし、切り抜けます。

 カップヌードルでもうひとつ注目すべきは、パッケージのデザインです。50年たったいまも古くささを感じさせません。一般的なカップ麺と違い、パッケージに麺の写真がないんです。発売にあたって「いつでも、どこでも食べられる麺」となれば、わかりやすく麺の写真を入れたくなるものです。しかし、それをしなかった。百福さんが、カップヌードルをラーメンのコピーとしてではなく、全く「新しいカテゴリーの商品」と択えていたからです。これも大事な「視点」で、パッケージデザインに象徴される、シンプルさもカップヌードルが50年続いてきた強さの一因だと思います。

 横浜のカップヌードルミュージアムをプロデュースする際、百福さんのクリエイティブシンキング(創造的思考)を子どもたちが楽しみながら体感できるコーナーを作りました。多様な「視点」を持つ子どもたちが育ち、まだ見ぬ世界を拓いてくれたら嬉しいです。

(編集部・石田かおる)

AERA 2021年5月24日号