<生きたいと思いますか? 本当に人でなくなっても生きたいと このまま…病で貴方は命を落とすでしょう ですが 人でなくなることは …つらく苦しい>(珠世/3巻・19話「ずっと一緒にいる」)

 彼らが鬼でありながら人間の社会で暮らすことには、さまざまな苦難がつきまとう。それでも愈史郎は、珠世と「鬼として生きる人生」を選んだ。珠世の存在こそが、愈史郎の喜び。珠世と一緒であれば、この世の「生き地獄」にあっても、幸福なひとときを感じることができた。

■「珠世の望むままに」

 愈史郎は純粋に珠世を愛した。コミックス21巻の表紙を取ると、愈史郎の狂おしいほどの珠世への愛がうかがえる。どんな犠牲をはらっても、珠世を守ろうと、彼は懸命だった。しかし、そんな心とは裏腹に、珠世が「無惨とともに死ぬため」に、産屋敷邸へ向かうことを、愈史郎は止めることができなかった。

 最後に珠世から愈史郎に、直接伝えられたのは、「今生での」永遠の別れ。珠世は、夫殺し・子殺し、そして人喰いの罪を、愈史郎に、ともに背負わせることはできなかったのだ。愈史郎を自分から解放することが、愈史郎に対する、珠世からの愛の返答だった。

■珠世の「最期」を見届けた愈史郎

 無惨との最終決戦では、たくさんの鬼殺隊隊士たちが命を落とした。圧倒的に不利な状況で、珠世は無惨に「弱体化させる混合薬」を飲ませることに成功する。しかし、強大な無惨の力を前に、珠世は「私の…夫…と…子供を…かえ…せ」と悲痛な言葉を残し、殺害されてしまった。

 愈史郎が持つ異能の力は「血鬼術・紙眼」(けっきじゅつ・しがん)。視覚を共有するなど、「目」にまつわる能力だ。愛する珠世の美しい頭部が無惨に握りつぶされ、吸収されるさまを、遠隔ではあるが、愈史郎は目撃してしまう。

 絶望の中、愈史郎は珠世の悲願達成のため、自分にできることを遂行していく。激化する戦闘の最中、愈史郎は亡き珠世に祈る。

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珠世との「幸せ」を絵の中に描き続ける