世論の東京五輪中止の声が高まる中、大会組織委員会への批判も相次ぐ。ボランティアや内部資料、コロナ対策などから、「不透明さ」が指摘されている。AERA 2021年6月7日号から。
【写真】ボランティアが支給されるユニフォームやマスク、エコボトルがこちら
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紺色の大きなトートバッグを肩にかけた男性(65)が、おもむろに口を開いた。
「この格好で歩いたら、石をぶつけられるんじゃないかって怖さはあるよ」
“この格好”とは、東京五輪・パラリンピックのボランティアが着用するユニホームのことだ。
ブルーのシャツにグレーの靴とズボン、濃い青色の帽子。頭のてっぺんから足のつま先までスタイリッシュなデザインは、遠くからでも目を引く。
東京・虎ノ門では、競技会場などで活動する「フィールドキャスト」と呼ばれるボランティアが着用するユニホームの配布が始まっている。冒頭の男性は埼玉県から訪れた。
「ボランティアは楽しみです。ただ、この1年、国は五輪に賛成とは言えない状況を作ってきた。五輪の格好をしていたら、よく思わない人もいるでしょう」
ボランティア参加者には、自宅から会場までユニホームを着用しての移動が義務付けられている。ドライビングサポーターとして五輪関係者を運ぶこの男性のシフトは、一番遅い日で夜11時半まで。自宅最寄り駅に着くのは深夜1時近くになる。
SNS上でも、
<コロナが落ち着いていないのにユニホームを取りに行くなんて>
<ボランティアを酷使しすぎ>
<ボランティアは無償で五輪バイトは有償なの?>
といった不満の声が上がっている。ボランティアを辞退するという人もいた。
大会組織委員会によれば、ボランティアの参加予定者数は約8万人。組織委の会長を務めていた森喜朗氏(83)の女性蔑視発言の騒動があった今年2月4~23日の20日間で約千人の辞退があったが、それ以外の辞退者数は非公表としている。
■ロゴを隠す人もいる
ユニホームの受け取り会場から出てきたボランティアのなかには、「TOKYO 2020」のロゴを隠すようにバッグを抱えたり、別のバッグに移し替えたりする人の姿もあった。
不安を抱くボランティアに組織委はどう対応しているのか。質問状を送ると、自宅からのユニホーム着用は変わらないとして、参加者と「事前の研修等で丁寧なコミュニケーションを取っていきたい」としたが、具体的な対策の回答はなかった。
「組織委は透明性のある明確な説明ができていないと感じています」
指摘するのは笹川スポーツ財団特別研究員で組織委のボランティア検討委員なども務める西川千春さんだ。