昨年の首相退任後以降、影が薄かった安倍晋三前首相が台湾へのワクチン提供をきっかけに存在感を増している。安倍前首相に近い細田派(清和会)所属の国会議員がこう話す。
【写真】台湾パイナップルを手に満面の笑みでアピールする安倍前首相
「安倍さんは『桜を見る会』問題はなんとか乗り切ったが、河井克行・案里夫妻への1億5千万円提供問題では、頭を抱えていた。首相を辞めた当初こそは、再々登板も噂されたが、その期待もしぼんでいた。だが、台湾へのワクチン提供を電撃的に決めて中国に一泡吹かせた。安倍さんはドヤ顔ですよ」
日本政府が台湾へ寄付したアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン124万回分は6月4日、現地に届けられた。台湾はこれまで新型コロナウイルスを封じ込めてきた「優等生」だったが、5月になって、海外から帰国した航空機のパイロットから感染拡大、新規感染者が急増している。
病院でクラスターが発生するなど、6月に入ると新規感染者数が1日で500人を超える日も出ていた。
さらに台湾はワクチン手配が中国の“横やり”で他国より遅れていた。ドイツのビオンテック製のワクチンが手配に成功していたが、蔡英文総統は「契約がほぼ決まっていたのに、中国が介入して契約ができない」と批判。中国のワクチン提供の申し出を「安全性の担保」を理由に蔡総統は断っていた。
「ワクチンが入手できない台湾の富裕層は、早く接種したいと、アメリカまで行っている。アメリカ行きの飛行機は連日、満席ですよ」(台湾在住のジャーナリスト)
一方、日本では副反応が懸念されるアストラゼネカ製のワクチン接種を見合わせていた。
「アストラゼネカ製のワクチンは下手すれば在庫になってしまう。ワクチンを発展途上国にも広げるCOVAXに乗せればいいという話が出ていたが、今後については未定だった」(官邸関係者)
一気に台湾提供へ動いたのは5月24日だった。台湾の台北駐日経済文化代表処、謝長廷駐日代表はアメリカのジョセフ・ヤング駐日臨時大使と会談したとツーショット写真をFacebookに投稿したが、実はその場にはもう一人の人物がいた。安倍政権で外務副大臣、首相補佐官だった薗浦(そのうら)健太郎衆院議員だ。