AERA 2021年6月14日号より
AERA 2021年6月14日号より

 ウーバーは「新報酬体系」を全国で導入した。その内訳は明示されないことから配達員の間で非難の声が上がる中、改善された点もあった。AERA 2021年6月14日号から。

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 ウーバー配達員歴が3年になる大阪市在住の大橋敦史さん(41)は、ウーバーは「アメとムチ」を上手に使い分けていると感じている。

「アメと感じるのは、まず、店名が事前にわかるようになったことです」(大橋さん)

 新報酬体系では報酬の算出方法が変わったことに加え、改定前は表示されなかった飲食店名や配達先などが配達依頼を受ける前にスマホに表示されるようになった。これまでは、依頼がきても店の位置が地図上に示されているだけ。その場所に行くまで飲食店の名前すらわからなかった。それが、事前にわかることになり格段に働きやすくなったという。

料理完成時刻が遅れがちな店を避けられ、報酬は歩合なので収入にも直結します。また、配達先がわかることで自宅方向への配達依頼を受けることができ、スキマ時間の有効活用が可能になりました」(同)

 逆にムチと感じるのが、報酬の算出方法が非公開の点だ。どれだけ長距離の配達案件でも全て300円に報酬が固定される事例が散見されるという。「正しく計算されています」とウーバーから返事があっても、正しいかどうかを知り得るのはウーバーのみ。アプリにバグ(不具合)があまりに多いと言い、バグなのか報酬体系変更なのか見分けがつかず、報酬の内訳を見えなくしたことは大きな非難に値すると指摘する。

「こうしてアメとムチを上手に使い分け、配達員を働かせるウーバーのやり方は、うまいと思います」(同)

 アメとムチで配達員を鼓舞し、拡大を続けるウーバー。しかし、労働者性のあるなしにかかわらず、働く上で大切なのは、本人に気づきを与え自律行動を促し、モチベーションにつなげることだ。それが企業の成長にもつながる。(編集部・野村昌二)

AERA 2021年6月14日号抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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