推し活で人間関係も広がった。女性はツイッターに推し活専用アカウントを持っている。気になる情報はシェアし、フォロワーとコメントを送り合っている。
「感想を言い合うと、若い人とも『わかる』『そういう見方もあるんだ』と共感できます。気が合う32歳の女性は、親友だねと言ってくれました。私をオンニ(姉)と慕ってくれる人もいます。リアルな親友は3人でしたが、友達が増えました」
推し活は元々、若者発のカルチャーだ。アイドルにのめり込む女子高生を描いた宇佐見りんの芥川賞小説『推し、燃ゆ』は今年上半期のベストセラー総合1位になった。だが、意外なことに推し活とシニア世代との相性はバツグンだった。『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』の著書があるライターの横川良明氏は言う。
「お金や時間に限界がある若者に比べ、シニアは仕事も家庭も落ち着いて、余裕がある。今はSNSを活用することで交友関係を広げることもできますし、心の中に大切な人がいることで、新たな生きがいにつながります」
推しの熱愛報道などに一喜一憂してしまう若者は少なくないが、シニア世代は違うという。
「推しが結婚しても子どものような感覚で、祝福できるのかもしれません。人生経験豊富だから、自分の愛情を押しつけず、過剰にならない応援ができるのでしょう」
長く推し活を続けることで見えてくる境地もある。名古屋市に住む主婦(71)は、17年前、娘から勧められた韓国ドラマ「冬のソナタ」を観て、どはまり。ヨン様ことペ・ヨンジュンのファンになった。仲間内からは「ユジンちゃん」と呼ばれている。
「イベント予約のためにインターネットを覚え、公式サイトの掲示板に書き込みすることでお友達と出会えた。ここ数年、掲示板は動いていませんが、ヨン友さんとスマホでLINEし、インスタグラムもやってます。夫はパソコンが使えないから、ヨン様と出会えなかったら私も文明についていけなかったでしょう」