「なぜそんなに急がれるのでしょうか?」
「一日でも早く子どもがほしいのです。こうしている間に老化が進んでいることを考えると、気が気でありません」
老化と言えば、こちらの年齢は気にならないのだろうか。
「どんな男性がお好みですか?」
さしさわりのない質問をした。
「私の父のような男性が理想です」
「どんなお父様なのでしょうか?」
「すべてを自分で引き受け、ものごとに動じない男性です」
なかなか立派な父親だと思いきや、さらに聞くと、父親は母親を嫌い、家から追い出したらしい。トシコさんも追い出され、電話にもでてくれないそうだ。どんな人なのか、よくわからなくなった。
「トシコさんは何をしているときが楽しいのですか?」
また、さしさわりのない質問も投げかけた。
「それは秘密です」
教えてくれない。
「内緒にするほどのことでしょうか?」
「わたくし、男性にはミステリアスな女だと思われたいので、趣味については秘密にさせてください」
これまでのふるまいや会話ですでに十分にミステリアスだと思ったが、それは口にはしないでおいた。
「では、そろそろ帰りましょうか?」
そう提案した。すでに十分に飲食していた。それに彼女は不思議過ぎて、一緒にいるのはもう限界だったのだ。
「えっ、帰る前に、わたくし、食べたいものがあります。最後にステーキを注文してはいけませんでしょうか? 牛肉の鉄分もいただきたいので」
そう言うと、こちらの返事も聞かず、楽しそうにメニューを眺め、ウエイトレスさんを呼んだ。
「ここにあるお肉の産地をそれぞれ教えていただけますか」
ウエイトレスさんは困った表情になりながらも厨房に確認しにいき、一つ一つ説明してくれる。トシコさんは悩みに悩むが、産地を聞いたところで肉の違いはわからない様子で、さらに訊ねた。
「どの牛肉が一番おいしいですか?」
ウエイトレスさんがまた困った表情になる。
「申し訳ございませんが、お好みによります」
そう答えるしかないだろう。
「では、この一番お値段の高いお肉にしてください」