政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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英国で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕しました。今回特筆すべきは、G7の他に、招待国としてインド、オーストラリア、韓国、南アフリカの首脳も参加したことでしょう。
首脳宣言では、中国の人権問題についても踏み込みました。「一帯一路」の対抗策として中低所得国へのインフラ支援、さらには「台湾海峡の平和と安定の重要性」などが盛り込まれました。
先進諸国のチームプレーで中国問題を共通のアジェンダに載せ、その勢いを封じ込めようとする今回の拡大G7。中国の現執行部の目には、1900年の義和団事件(北清事変)に派兵した米英日など連合国による介入の現代版と映り、雪辱の意識をより高めるキャンペーンをはる可能性があります。一方、世界が中国の色に染まるのを食い止めたいというのが米国の基本的戦略です。中国のサプライチェーンを拡大させないためにも、戦略的な物資やサプライチェーンが国家によって統制、管理されていくと思います。
米バイデン政権が最初に日本、続いて韓国との首脳会談に臨んだのを見ても分かる通り、中東ではなく東アジアが世界最大の紛争地域のフロントになりつつあるのは明らかです。東アジアが地政学でいうリムランド(ユーラシア大陸の周縁部)の東側の最前線という現状、そこに争点として浮上してきた台湾海峡問題。さらには、世界経済を左右しかねない半導体のシェアをほぼ独占しているのが台湾と韓国です。いま東アジアは、リムランドの中でもっとも濃厚な緊張地帯だということです。
1991年のソ連消滅による冷戦終結から30年。その間、我々はそれをポスト冷戦、あるいはグローバル化の時代と呼んできました。今回のサミットを契機にポスト冷戦以後のグローバル化が終わり、「新冷戦」のような時代に移行しそうです。
しかし、それはかつての米ソの二大勢力の対峙(たいじ)ではなく、19世紀末の列強対峙の不安定な国際秩序へと移っていくのではないかと思っています。そういう意味でも今回の拡大G7は、大きなターニングポイントであり、エポックメイキング的な出来事だったのではないでしょうか。
姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍
※AERA 2021年6月28日号