NPO法人日越ともいき支援会代表・浄土宗僧侶、吉水慈豊。増え続ける外国人労働者のなかでも、近年、その最大の人材供給国となっているのがベトナムだ。それに比例するように、実習先から失踪する技能実習生や、自ら死を選ぶ留学生など、悲惨な状況に陥るベトナム人が増えた。吉水慈豊の元には、そんなベトナム人からのSOSが毎日入る。遠方であろうと、夜中であろうと、吉水は駆けつける。
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ベトナム人元技能実習生のグェン・ドゥック・フー(34)を乗せた車が、成田空港に向かっていた。
フーは多くの技能実習生同様、日本でお金を稼ぐことを夢見て来日したが、わずか3カ月で実習先から失踪した。労働環境は劣悪で、15時間働いても7時間分の給与しか支払われなかった。
寮費や光熱費を引いた手取り給与は約6万4千円。これでは、母国の送り出し機関に支払うために借りたお金を返すだけで約2年半かかる。
借金を返すためだけに働き続けられないと、フーは失踪。在日ベトナム人などを頼り、愛知県の野菜農家や滋賀県の梱包会社の仕事に就くなどしたが、3年目に脳梗塞(こうそく)を患った。
外国人は入管当局に認められた「在留資格」がなければ、日本に滞在できない。失踪したフーは「不法滞在者」扱いになり、医療保険が適用されず、病院から請求された入院費などの医療費は約400万円。一命はとりとめたが、半身まひと言語障害が残り、車椅子なしには動けなくなった。記憶の一部が欠落し、帰る場所もない。
フーを保護したのが「ベトナム人の駆け込み寺」とも言われる東京都港区の浄土宗寺院「日新窟(にっしんくつ)」だった。同院の寺務長でもある吉水慈豊(よしみずじほう)(51)は、ベトナム人僧侶とともにベトナム大使館、入管当局に掛け合い、母国に帰りたいというフーの航空券を手配し、帰国の手はずを整えた。
成田空港に向かう車中、フーが残した言葉が、吉水の心を切り裂いた。
「失踪した僕のことを犯罪者と言うけれど、犯罪者にしたのは日本人だ。僕は犯罪者になりたくて日本にきたわけじゃない」
こんな子をこれ以上、出してはいけない──。
2019年のことだった。
翌年には新型コロナの感染拡大の影響で、不当解雇にあったり、行き場を失ったりするベトナム人技能実習生や留学生が急増。吉水の携帯には毎日、彼らからのSOSが届く。緊急性があれば、遠方だろうが、真夜中だろうが、吉水はハンドルを握り、保護に向かう。