
ジャーナリストの多賀幹子さんが、今年9月に96歳で亡くなったエリザベス女王を偲ぶ。
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一時は母に「弟を産んで」と懇願したものの、いったん決まれば潔く受け入れ、使命感と責任感で「君臨すれども統治せず」を貫きました。女王の運命が決まったのはわずか10歳。伯父の退位により次男の父が戴冠したからです。英王室最長となる在位70年は、彼女の意志の強さはもちろん、国民からの信頼がなければ成し得なかったでしょう。
夫のフィリップ殿下と120カ国以上を歴訪しました。テーマは常に和解だったといいます。旧植民地のアイルランドの晩餐会でのスピーチは英語ではなくゲール語で語り、一気に雰囲気を和らげました。
第2次世界大戦で敵国だった日本でのスピーチは、両国の共通点をユーモアにくるんで具体的に挙げ、双方から笑いを引き出しました。
公の場面では高い評価を受けても、家族問題には悩まされた。ダイアナ元妃の交通事故死は決定的でした。国民から責められ、王室打倒の声さえあがりました。最大の危機に、女王はバッキンガム宮殿に半旗を掲げ、喪服に身を包んで異例の追悼スピーチを行います。