
1998年に「カンゾー先生」(今村昌平監督)で映画デビューした北村有起哉さん。その約4年後、映画やテレビドラマ、舞台など仕事が次々に舞い込むようになり、「これでアルバイト生活からも卒業できるかな」と思っていた矢先、舞台の稽古初日でアキレス腱を切ってしまった。三つの仕事が同時並行的に始まるタイミングで、全部の仕事を諦めざるを得なくなった。
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「そうしたら、すべての作品の代役が翌日か翌々日ぐらいに決まって(苦笑)。当時は主に舞台の仕事が多かったんですが、2年ぐらい走りっぱなしだったんです。そうしたら、いきなりアキレス腱がプツッと切れた。誰かに、『お前ちょっと休め』って言われた気がしました」
1年弱ほどは現場には復帰できなかったが、芝居から距離を置いたことによる気づきもあった。
「アキレス腱を切ったのは、急に環境が変わって、芝居仲間にどう接していいかわからなくなってきた時期でした。『最近すごいじゃん』とか言われて、でも、そう言われるのに慣れてないから、なんて返したらいいかわからない。『そんなことないっすよ』とかって普通に答えればいいところを、自意識過剰になって、人間が持ち合わせている悪いエネルギーにぐっと引きずり込まれそうになっていた感覚がありました。アキレス腱が切れて、立ち止まることができたんです。しかも、仕事ができないときに限って、市川準さんからのご指名でCMの話をいただいて。『体を動かせないんです』って言ったら、『椅子に座ってるだけだから』と。割といい報酬がいただけてありがたかったです。まさに、『捨てる神あれば拾う神あり』みたいな(笑)」

■隙のあるおじさんでいたい
映像では、名バイプレーヤーの印象が強い北村さんが、男も女も惚れるアウトローな探偵を演じた「終末の探偵」が公開される。ギャンブル狂で酒癖は悪いが、困っているヤツは見過ごせない。そんな、どこか昭和の香りがする探偵を、とことんカッコよく演じた。