40代のスタッフ、キャストを中心に、昭和のハードボイルドな探偵映画を令和によみがえらせた「終末の探偵」。その主人公を演じた北村有起哉さんの俳優としての矜持とは?
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主演映画のインタビューの日、取材現場に向かいながらふと思った。「自分は、胸を張って“映画人”とは言えないな」「映画は好きだけれど、演劇も好き。ドラマも楽しくできる。“どのジャンルにもヒョイヒョイ顔を出して、うまくやっている男”と思われているかもしれない」と。
「僕自身、俳優としては欲張りなんですよ。映画の仕事が続くと、最近、演劇やってないなと思うし、演劇の仕事が続けば、映画やドラマをやってないなって思う。『何でもやりたい』欲望が強い。でも、欲があるってことはたぶんいいことなので、節操なくやっていけたらいいなって(笑)」
俳優は、“代わりがきかない仕事”と言われることがある。“ぜひこの人で”とキャスティングされたり、オーディションで選ばれたりしたのだから、作品には、その人でなければできない役が存在することは確かだ。しかし、北村さんはそう思っていない。「自分の代わりなんかいくらでもいる」──。映画デビューとなった今村昌平監督の「カンゾー先生」で、そのことを思い知らされたからだ。
「オーディションで勝ち取った役のはずなのに、自分の出番がくるまでの2カ月半、馬車馬のように手伝わされたんです。最初に監督から、『早めに(ロケ場所の)岡山に入って、先輩の芝居を見学するといい』みたいなことを言われて現場に入ったら、大道具から小道具、衣装に撮影部、音声、照明とか……映画作りのためのスタッフ仕事をすべて経験させられました。そうしたら、途中で嫌になっちゃったんですよね(苦笑)。“こんなことするために俺はここに来たんじゃない”って。そしたら今村さんが『もうお前、東京に帰っていいよ』って。一言もセリフを言わないうちに、『お前の代わりなんかいくらでもいるから』と言われてしまったんです」