トイレに向かったとき、大声で笑ったときなど、意思とは無関係に尿が出てしまう「尿漏れ」は、だれにでも起こりうる症状だ。悩む人は、恥ずかしがらずに医師に相談しよう。専用の尿パッドを使えば外出も怖くない。
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東京都内に暮らす専業主婦の頼子さん(仮名・69歳)は、7年前から人知れず悩んでいることがある。
尿意を感じて朝に目が覚めてからトイレに向かうまで、昼寝をしていて起き上がった瞬間など、日常生活のふとしたタイミングで尿が出ているのだ。
最初はそれほど気に留めてはいなかったというが、年月を経るにつれ、急いで走ったとき、子どもを怒鳴ったときなど「漏れ」の場面は増えていった。
はじめて体の異変に気付いたのは、母親が認知症になり、介護を始めて間もない時期だった。
「認知症になる前から母は尿漏れの症状があり、介護を始めてからは、本人に代わって私がパッドを付け替えていました。まさか、自分が同じ状態になるとは思ってもみませんでした」(頼子さん)
今は、市販の専用製品(尿漏れパッド)を自宅に常備している。使用頻度は日によってさまざまで、1日1枚の日もあれば、4~5回取り換える日もある。特に昼寝が長引くなど、気がゆるんだときは漏れが多くなるという。なるべく大きいサイズを選んでいるが、それでも間に合わず、尿が下着やズボンを濡らしてしまうこともしばしば起こってしまう。
夕飯の買い出しに出向いたデパートで症状が起こってしまったときは、下着が濡れていると恥ずかしいから、買い物の途中であってもまっすぐ帰宅する。水分を多くとると漏れやすく、車や電車に乗る前は極力、コーヒーなどは控えている。
頼子さんの状態は「切迫性」と「腹圧性」の症状が見られる「混合性尿失禁」と呼ばれる症状に該当する。「切迫性尿失禁」とは我慢できない強い尿意が突然起こり、漏れ出してしまう「過活動膀胱(ぼうこう)」の一種だ。通常、尿がたまっているときに膀胱がゆるみ、尿道は締まっている。反対に排尿するときは膀胱が収縮し、尿道が広がる。いずれも、自律神経の作用によるものだ。過活動膀胱とは、尿のたまった膀胱が自律神経の言うことを聞かず自分勝手な収縮を繰り返し、排尿に間に合わなくなる状態を指す。