サッカークラブに所属する子どもの中には、将来、プロを目指す子もいる。練習したくてもできない我慢の日々が続いた(写真:椎名雄太さん提供)
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保護者が見守る中、ユニホーム姿の小学高学年の有志が、小平市教育委員会の担当者に集まった署名と要望書を提出した(写真:椎名雄太さん提供)

 コロナ禍でも体育や五輪はできるのに、なぜ週末のサッカーだけはできないのか。そんな疑問を持った東京都小平市の子どもや保護者が市役所を動かした。AERA 2021年7月12日号から。

【写真】小学高学年の有志が、小平市教育委員会の担当者に要望書を提出した

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 その瞬間、子どもたちの歓声が轟(とどろ)く。7月3日午前11時──。

 東京23区の郊外に位置する人口約19万6千人の東京都小平市は、都心で働く人々のベッドタウンとして子育て世帯に人気がある。サッカーや野球など、団体スポーツが盛んなまちでもある。週末になると小中学校の校庭は地域のスポーツ団体に開放され、早朝から大勢の子どもたちが泥だらけになりながら汗を流すのが日常だった。

 しかし、2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発出された緊急事態宣言が、週末の風景を一変させた。

 市在住の椎名雄太さん(44)と妻の理沙さん(42)は熱烈なサッカーファン。今年10歳と8歳になる長男、次男も地域のサッカークラブに所属している。週末になると椎名さん夫婦は、息子たちの練習試合の応援やサポートに駆り出された。

「地域の学校の校庭が子どもたちの練習場でした。けれども、緊急事態宣言の影響で、学校施設は本来の目的以外の利用が中止となったのです。もちろん、クラスターが発生するリスクもあったので、当初は自粛を受け入れることにしました」

■グラウンドの陣取り

 しかし、緊急事態宣言が長引くに従って、思わぬ影響が出始める。活動場所を失った一部のスポーツ団体や、子どもたちの運動場所確保のために奮闘する大人が、地域の運動ができる施設に殺到したのだ。とくに予約を必要としない公園などでは、早朝からお花見さながらのグラウンドの陣取り合戦が勃発。限られた場所の中で異なる競技がどう共存するのか。話し合いでは決着せず、一部では大人同士の小競り合いも発生。結局、地域住民はより「密」な状況での活動を余儀なくされた。

 それ以上に「残酷」な現実が、子どもたちに可視化されてしまったと訴える親もいる。それは「格差」だという。小平市のあるサッカークラブに息子が所属する親の一人が証言する。

「サッカーでも野球でも、団体スポーツに所属するのは費用がかかる。クラブチームに所属できる家庭の子は、学校施設が使えなくても有料の施設をチームで借りてサッカーをすることができる。けれども、例えばシングルマザーや非正規雇用など、コロナで収入が減少した世帯の子どもはどうすることもできない。この現実はコロナ前から存在していましたが、コロナ禍でよりその格差があらわになってしまいました」

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