ユーチューブで“ファスト映画”を検索してみた。宮城県警の摘発、逮捕もどこ吹く風で、映画がいっぱい出てきた。あの名作『エイリアン』も発端から結末まで微に入り細にわたり画像を添えてストーリーを紹介されている。制作費千百万ドル、約二時間の大作がたった五分に縮められ、「これで『エイリアン』という映画を見ました」となったら、製作側もたまったものではない。『エイリアン』でもっとも魅力的なH・R・ギーガーのキャラクターデザインや異星人の宇宙船のデザインも、ただの背景として流れるままだ。監督のリドリー・スコットもさぞや残念だろう。

 わたしの好きな『冷たい熱帯魚』もあった。これも画像と淡々としたナレーションでストーリーが紹介されていく。でんでんの怪演も吹越満の名演も見られない。監督・園子温の斬新なシナリオセンスも味わえない。

 ファスト映画が猖獗(しょうけつ)を極めると映画産業が破壊される。漫画の海賊版サイトもそうだが、著作権が侵害されると創作者が正当な利益を得られず、創作そのものが衰退する。

 幸いにして“ファスト小説”というサイトはなかった。あらすじや起承転結を紹介するものはあるが、そもそも小説には映像も画像もないから、字幕やナレーションのつけようがない──。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年7月16日号

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