ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、ファスト映画について。
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朝日新聞6月30日の夕刊にこんな記事があった。
《ファスト映画 深刻 無断で編集し投稿 逮捕者も…
映画を無断で短く編集した「ファスト映画」と呼ばれる動画を「ユーチューブ」に投稿したとして、20~40代の男女3人が著作権法違反容疑で宮城県警に逮捕された。ファスト映画はコロナ禍で急速に広まり、被害は深刻だ。なぜ人気なのか。》
三人の逮捕容疑は著作権者の許諾を得ず、邦画五本をそれぞれ編集し、ナレーションをつけて投稿したというものだったが、逮捕されたのは、引用した映像や画像が合法の範囲を著しく逸脱していたからだろう。わたしが調べると三人が作成したファスト映画は百本を超え、再生回数に応じて得られた広告収入は四百五十万円もあったという。
《ファスト映画は、映画の動画や静止画を無断で編集し、字幕やナレーションをつけ、あらすじを紹介する10分程度の動画だ。(中略)「ネタバレ」も避けず、結末まで紹介するケースが多い。
映画会社や出版社などでつくるコンテンツ海外流通促進機構(CODA)によると、少なくとも55アカウントが2100本を投稿。再生回数は約4億7700万回で、CODAは被害額を956億円と推計する。(中略)CODA担当者は「投稿者は再生回数に応じた広告収入で暴利を得ている(中略)」と話す。》
わたしも著作権にかかわる仕事をしているので他人事(ひとごと)ではない。ファスト映画の摘発は初めてだが、思い浮かんだのは“漫画村”だ。漫画村による出版社の被害額は約三千二百億円とみられ、一昨年、元運営者が逮捕され、今年、著作権法違反と組織犯罪処罰法違反で懲役三年、罰金一千万円、追徴金約六千二百万円の判決をうけている。この手の“他人のふんどしで相撲をとる商法”は叩いても叩いてもモグラのように顔を出す。被害額も生半可ではない。