※写真はイメージです (GettyImages)
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 文芸評論家の末國善己さんが選んだ「今週の一冊」。今回は『シャムのサムライ 山田長政』(幡大介著、実業之日本社 2640円・税込み)の書評を送る。

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 NHKドラマ化された『大富豪同心』など、シリーズものの時代小説で人気を集める幡大介は、幕末に幕府歩兵を軸に結成された衝鋒隊を描く『幕末愚連隊』、第24回中山義秀文学賞の候補作になった『騎虎の将 太田道灌』など、歴史小説でも確かな実力を見せている。江戸時代初期にシャム(現在のタイ)に渡った山田長政(通称・仁左衛門)を主人公にした本書も、その一冊である。

 徳川家康に仕える大久保忠佐の六尺(駕籠かき)だった仁左衛門は、トラブルを起こして江戸を離れ、長崎の豪商の弟・木屋半左衛門の朱印船でシャムに向かう。

 シャムの都市アユタヤで暮らす日本人は、豊臣秀吉が黄金を送って鉄砲で使う鉛と硝石を購入していた経緯から豊臣方が多く、新たな日本の支配者としてシャムと交易を始めた徳川と対立していた。ある日、不利を悟ったアユタヤ日本町の頭領で豊臣方のオークプラ純広が、王宮を占拠した。戦闘の経験などない仁左衛門だが、元倭寇という半左衛門の配下たちを率い、純広一派と戦うことになる。

 ソンタム王を救い出し信任を得た仁左衛門は、日本人義勇隊のリーダーとして数多くの合戦に参加し、武勲をあげていく。その中には、圧倒的な突破力を持つ戦闘用の象が用いられ、象に乗った兵士が一騎打ちをする近隣諸国との陸戦もあれば、巨大なガレオン船に射程距離の長い大砲を積み、日本人が得意とする船に乗り込んでの白兵戦を封じる仕掛けを施したスペイン艦隊との海戦もあるなどスペクタクルが連続するので、約600ページの大長編ながら一気に読めてしまうだろう。

 仁左衛門の配下は、関ケ原の合戦で敗れた豊臣方の浪人、弾圧が強まる日本を逃れたキリシタン、苛酷な労働をしてきた奴隷など、祖国での居場所をなくした人たちが中心だった。世をすねていた負け組が仁左衛門に見いだされ、いままで培ってきたスキルを活かして活躍する展開は痛快で、現代の日本に必要なのは再チャレンジを支援するシステムであることも実感できる。

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