そうして完成したのが、「現代に甦った横溝正史的世界」とも称された本格ミステリーだった。主人公のもとにかかってきた一本の脅迫電話が発端となり、30年前の「母の不審死」と「毒殺事件」の真相が解き明かされていく。怒濤の展開、伏線の回収、驚愕の真相。ミステリーの醍醐味を間違いなく味わえる一冊だろう。なのに、それだけでは飽き足らないのか、最後の最後に雷に打たれたような衝撃的な一文が待つのだ。
「週刊誌に連載していたので終了時にいろいろな反響を聞きました。自分でも驚いたのですが、読む人の性別や年代によって登場人物の誰に共感するのかということはもちろん、結末の受け取り方もまったく違ってくるんです。以前、ある先輩作家に『道尾君は読者を信用しすぎじゃないか』と言われたことがあります。でもやっぱり僕は読者を信用したい。本書も好きなように、感じるままに読んでもらえたらって思っています」
賽は投げられ、あとは読者に委ねられた──。小説ならではの企みを、その手に取って実感してほしい。
(編集部・三島恵美子)
※AERA 2021年7月12日号