AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
道尾秀介による『雷神』は、小説でしか味わえない魅力を追求し続ける彼の集大成的作品となる一冊だ。藤原幸人のもとにかかってきた脅迫電話が惨劇の始まりだった。30年前に藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」の真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実、一人娘の夕見とともに、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。道尾さんに、本作にかける思いを聞いた。
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「今日が発売日なんです」
そう言って手渡された本は、『雷神』という文字がひと際、光を放っていた。
「表紙に使用した箔押しという特殊印刷の文字もそうですが、今回はわがままをすべて叶えてもらいました。例えばカバーを開くと、しめ縄の写真から始まって、プロローグが入り、ようやく本文のタイトルが出てきます」
ミステリー作家の道尾秀介さん(46)は、そっとページをめくりながら、本書の仕掛けを説明していく。
「入り方としては小説というよりも映画のようですよね。パッケージも大切だと思っているので、文字の組み方もパッと開いたときにどれくらいの文字が目に入ってくるのか、余白がどのくらいなのかなども気を使っています。本そのものが世の中から飽きられてきていると感じているので、作りも変えていかないと読者も面白くないと思うんです。普通は小説ではやらないよねっていうこともやっています」
作家歴17年。日本推理作家協会賞、大藪春彦賞、山本周五郎賞に直木賞……まごうことなき実力と人気を兼ね備えた日本を代表する作家である。そんな道尾さんをして「昔の自分には不可能だった」と言わしめたのが、今回の『雷神』だった。
「以前だったら余計なシーンがあったり、過剰に複雑になってしまったりして、この内容だと倍ぐらいの長さになっていたと思うんです。その辺りも整理できて、読み物として一番面白い形で世に出すことができました。もう一つは、これまでは実力以上のことはできなかったのに、『雷神』ではそれができてしまったという感覚があります。書いている時に『今まで頑張ってきたから、これをやるよ』みたいに、ふと降ってくることがあったんです(笑)」