しかし、その警鐘が響いているように思えない。菅義偉首相は「感染対策をしっかり講じて安全・安心の大会にしたい」と繰り返すのみ。五輪開催の是非から、いつの間にか観客を入れるか入れないかに、論点がすり替わっていた。


 
 今回の緊急事態宣言に、飲食業界からは悲鳴の声が挙がる。都内で居酒屋を経営する40代の男性は「ここでまた酒類の提供が禁止されたら、売り上げが大きく落ちる。補償金だけではやっていけないし、昨年から毎月赤字が続いている。政府の言うことを聞いて店をつぶすなら、補償金はいらないので酒を提供して通常営業するという店が増えるでしょう」と漏らす。また、都内のレストランに勤務する30代の男性も怒りが収まらない。「感染者数が増えている現状で、飲食業界は苦しいですが、緊急事態宣言は仕方ないと思います。問題はなぜ東京五輪を開催するかということ。安心、安全とは程遠い状況で生活がままならない人たちが増えている。政府や東京都は自分たちの功績作りのために五輪を強行したいとしか思えない」

 現在の東京は「平和の祭典」が行われる空気ではない。切実な訴えに、政府はどう感じるだろうか。(牧忠則)