ながせ・まさとし 1966年、宮崎県生まれ。83年、「ションベン・ライダー」で俳優デビュー。ジム・ジャームッシュ監督とは89年の「ミステリー・トレイン」以来親交が続いており、2016年「パターソン」にも出演。ほか河瀬直美監督のカンヌ出品作「あん」(15年)、「光」(17年)など出演作多数。最新作は公開中の「名も無い日」
ながせ・まさとし 1966年、宮崎県生まれ。83年、「ションベン・ライダー」で俳優デビュー。ジム・ジャームッシュ監督とは89年の「ミステリー・トレイン」以来親交が続いており、2016年「パターソン」にも出演。ほか河瀬直美監督のカンヌ出品作「あん」(15年)、「光」(17年)など出演作多数。最新作は公開中の「名も無い日」
「ミステリー・トレイン」で、赤いスーツケースに棒を通し2人で運ぶ場面。スーツケースの「カール・パーキンス」の文字は永瀬正敏さんが書いた。「日本語で書いてほしいって頼まれたんです。夕貴ちゃんも一緒に書いたんじゃなかったかな」。 (c) Mystery Train, INC. 1989
「ミステリー・トレイン」で、赤いスーツケースに棒を通し2人で運ぶ場面。スーツケースの「カール・パーキンス」の文字は永瀬正敏さんが書いた。「日本語で書いてほしいって頼まれたんです。夕貴ちゃんも一緒に書いたんじゃなかったかな」。 (c) Mystery Train, INC. 1989
「ミステリー・トレイン」で、ミツコ(工藤夕貴)がジュン(永瀬正敏)にくちづけで口紅をつけたあと。この演出は永瀬正敏さんの提案だった。 (c) Mystery Train, INC. 1989
「ミステリー・トレイン」で、ミツコ(工藤夕貴)がジュン(永瀬正敏)にくちづけで口紅をつけたあと。この演出は永瀬正敏さんの提案だった。 (c) Mystery Train, INC. 1989
「パターソン」の、終盤の重要な場面で主人公(アダム・ドライバー)の前に現れる登場する「日本の詩人」は、ジム・ジャームッシュ監督が、永瀬正敏さんであて書きをしたキャラクターだという。繰り返される「Ah-ha」というセリフも印象的だ。 (c)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
「パターソン」の、終盤の重要な場面で主人公(アダム・ドライバー)の前に現れる登場する「日本の詩人」は、ジム・ジャームッシュ監督が、永瀬正敏さんであて書きをしたキャラクターだという。繰り返される「Ah-ha」というセリフも印象的だ。 (c)2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
日本で初めて公開されたジム・ジャームッシュ作品でもある「ストレンジャー・ザン・パラダイス」。永瀬正敏さんが10代のとき、先輩の女優さんに「永瀬くんも絶対に好きだと思う」と勧められて観たという。「物語と音楽がすばらしい。ビートが映画の血肉になっている」と永瀬さん(c)1984 CINESTHESIA PRODUCTIONS INC. New York All Rights Reserved
日本で初めて公開されたジム・ジャームッシュ作品でもある「ストレンジャー・ザン・パラダイス」。永瀬正敏さんが10代のとき、先輩の女優さんに「永瀬くんも絶対に好きだと思う」と勧められて観たという。「物語と音楽がすばらしい。ビートが映画の血肉になっている」と永瀬さん
(c)1984 CINESTHESIA PRODUCTIONS INC. New York All Rights Reserved

 日本初公開から35年。映画界に衝撃を与えたジム・ジャームッシュ監督作品の特集上映が、東京で開催されている。劇場には幅広い世代のファンが詰めかけ、早くも、北海道から福岡まで全国での公開が決まった。「ミステリー・トレイン」「パターソン」に出演し、30年以上にわたり監督との親交を続けている永瀬正敏さんに聞いた。

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 ジム・ジャームッシュ。映画ファンならその名を知らぬ人はいないだろう。インディペンデント映画、つまりハリウッドメジャーではない作品を世に問いつづけている映画監督だ。1986年4月に日本で「ストレンジャー・ザン・パラダイス」が劇場公開され、話題をさらってから35年。いま、代表作12作品が東京のスクリーンで一挙公開されている。

「僕としてはグッとくるものがありますね。若い世代の方に、ジムの昔の作品をスクリーンで観てもらえる機会があるのは、本当にうれしいなと思います」

 そう語るのは、永瀬正敏さん。89年に公開され、カンヌ国際映画祭の最優秀芸術貢献賞を受賞したジャームッシュ監督作品「ミステリー・トレイン」に、工藤夕貴さんとともに出演。以来、監督と親交を深めている。2016年には「パターソン」にも出演した。

「ミニシアター、僕らの頃は単館系って言ってましたけど、その人気に火をつけた監督の1人だと思うので、ああ、またジムが小さな映画館を救うのか、と。大袈裟じゃないのも、彼らしい」

 自身が出演するより前から監督のファンで、全作観ているという永瀬さんに、ぜひ観てほしい1本を尋ねたところ、難しい、と笑われた。

「ジャンルレスなんですよね。ロードムービーがあったり、監獄ものがあったり。ドラキュラものも、ゾンビものもある。『パターソン』を撮影しているときだったかな、ジムが『次はゾンビやるんだ』って嬉しそうに話してくれて。最初、へえ、って返したんですけど、ん?ゾンビ!?って言った覚えがあります(笑)。意外性にそれだけ毎回驚かされるし、そこがジムのすごいところでもある。でも、どこか、流れている血液というか、作品すべてに流れているビートがあって。すべての作品に思い出があるので1本に決めづらいですね(笑)。でも、最初に劇場に観に行った『ストレンジャー・ザン・パラダイス』と、関わらせていただいた『ミステリー・トレイン』と『パターソン』、その3本は別格かな」

 永瀬さんと「ストレンジャー・ザン・パラダイス」との出合いは、「ものすごく衝撃だった」という。

「公開から1週間くらいのときだったかな。先輩の女優さんから、すごい映画見ちゃった、永瀬くん絶対好きだから観に行きな、って連絡もらったんです。行ってみたら、満員で。当時は消防法もゆるかったのかな(笑)、階段に座って観たんですよ。立ち見もいっぱいいた。観たらもう、びっくりしちゃって。お尻痛いのを忘れるぐらい没頭しました。なんだこれ?と」

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で観るべきポイントはたくさんありすぎて語り尽くせないが、特に音楽がすばらしい、と永瀬さんは言う。

「ビートがちゃんと映画の血肉になっている。曲のリズムで、みんな歩いてるんですよ。もちろん音楽を流しながら歩いて撮影してるわけじゃないんでしょうけど、結果的にあのビートが、物語の編集とかも含めて、作品のハートビートになっているのがすごい。それはほかの作品もすべてそうですけどね。音楽に造詣が深い監督ですから」

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