■プラス事象もストレス

 ストレスというと、マイナスの事象が頭に浮かぶが、昇進や「希望先に異動ができた」「念願の企画が通った」といったプラスの事象もストレス要因になる。また、ストレスの度合いと適応障害のなりやすさは相関関係にない。他人から見たらささいなことでも、その人にとっては適応障害を発症するほどのストレスとなり得る。

「ストレスは足し算のような面もあります。状況が違えば適応障害を発症しなかったかもしれませんが、コロナ、運動不足、睡眠不足などがあるところに、何らかのストレス要因がきっかけになって適応障害が発症することもある。『だれでも発症する可能性がある』と先に述べましたが、自分だけは大丈夫と過信しないことです」

 ストレスゼロの人はいない。自分にとってのストレスマネジメントを日頃から探求し実践するとともに、もしかして……と思ったら、速やかに適応障害に詳しい医師へ相談する。池井さんによれば、「働いている人の8割が職場でストレスを感じている」という調査結果もあり、仕事上でのストレス要因で適応障害を発症する人がかなり多いという。そのため理想は、まずは産業医への相談。上司への相談後、上司を通して産業医へつながるケースもある。

「適応障害と診断されれば、ストレス要因と距離を取り、休養をしっかり取る。就業が難しい場合、休職する。休職期間の目安として、私は基本的にはまず1カ月としています。ただ、仕事や経済的な事情もあるので、その場合は2週間ごとに体調の回復度を見て、復職を検討します。早期に対応した結果、1~2週間の休職で復職できたケースもあります」

■100%回復が大前提

 復職に関しては、主治医と産業医、双方から「可能」の判断をもらうことが大事だ。よくあるのが、「8割方体調が良くなったので、段階的に復職可能」「異動を条件に復職可能」という診断書が出るケース。適応障害に限った話ではないが、復職は体調が100%回復し、休職前の社会生活と同様のリズムで日常生活を送れるようになることが大前提だ。そこから、「元の働き方」「元の職場環境」への復帰を目指す。主治医だけが診ている場合、主治医はどちらかというと「患者の味方」のため、「早く復職したい」という患者の希望に沿って診断書を書きがち。それでは会社の求めているレベルに患者の回復度が達しておらず、適応障害を再発、ひどい場合はうつ病を発症しかねない。

「産業医は患者と会社どちらもがウィンウィンになるよう、復職のタイミングやプロセスを判断します」

 発症の背景や症状などによって適正に復職をサポートしていく必要があるため、産業医に相談することが大切だ。(ライター・羽根田真智)

AERA 2021年7月19日号より抜粋

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