翌16日に法案が衆議院法務委員会で審議入りした後も、仲間たちと国会前で抗議の座り込みを続けた。5月18日、政府は今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。福井さんは言う。

「様々な世代が声を出すことが大事。だから、僕は若いからこそ、これから先も、自分たちの社会を自分たちで考えるんだという声を上げていきたい」

 入管法改正案が廃案になったのは、俳優の小泉今日子さん(55)ら著名人が反対の声を上げたことが大きな要因となった。だが、廃案の原動力になったのは、間違いなく20歳前後の「Z世代」と言える。

 早稲田大学4年の蛭田ヤマダ理紗さん(22)もその一人だ。母親はブラジル出身。蛭田さんは、外国人の人権に対する日本の冷淡さをずっと肌で感じていた。入管の収容施設が劣悪な環境下にあることも、日本は難民認定率が極端に低いことも知っていた。そんなとき、入管法改正案が成立しようとしていると知り、「おかしい」と思った。

「そもそも現行の入管法が差別的であるにもかかわらず、それをさらに厳しくして外国人を取り締まろうとしている。しかもなぜ、コロナ禍でやらないといけないのかとすごく感じました」

■当事者の代わりに発言

「Voice Up Japan早稲田大学支部」の共同代表でもある。冒頭で紹介した福井さんたちと声を上げることにした。国会前でスピーチをし、座り込みにも参加した。

 入管の問題は、政治的な問題だけに収容された経験のある人は声を上げにくい。発言すると、再び収容されるかもしれないと危機感を覚えるからだ。だったら、声を上げられる「特権」を持つ側の自分たちが当事者の代弁をすることが大事だと話す。

「持っている特権をマイノリティー(少数派)の人を差別するのに使う人もいれば、助けるために使う人もいます。私は、自分が持っている特権をマイノリティーの人を助けるために使いたい」

 思いの根底にあるのは、マイノリティーを差別する社会への怒りだ。入管の収容施設にいる人はマイノリティーの存在。しかし、今はマジョリティー(多数派)の人も、いつマイノリティーになるかわからない。自分も今は日本にいるから「日本人」でいられるが、一歩国外に出たら「外国人」。それなのに、マイノリティーというだけで差別する。そこに激しい憤りを覚えるという。

 改正案は廃案となったが、入管問題は終わっていない、ウィシュマさんが亡くなった原因をはじめ、解決していないことのほうが多いくらいだと言う。

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