
AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』は、正解の見えない中、未来を見据えてシェフたちが語った言葉をまとめた、時代の記録というべき一冊だ。店を開けてもお客が来ない、未曽有のコロナ禍。補償なき自主休業か、儲けなしの営業か。苦悩の緊急事態宣言下で、場所も規模も様々な店のシェフたちが下した判断とは。著者の井川直子さんは、2020年の春と秋の2回、信頼するシェフたちの戸惑う心情を真摯に問いかける。井川さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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「何が正解なのかわからない」
小池百合子都知事が緊急会見を開き、「不要不急の外出、会食や外食も我慢しよう」と、都民に呼びかけた昨年の3月25日以降、SNSでは冒頭のようなシェフたちの言葉があふれるようになった。
食をテーマに執筆をしてきた井川直子さん(53)は、未曽有の状況下で奮闘するシェフたちへの取材を決意。緊急事態宣言が出た翌日の4月8日から5月にかけて、34人のシェフに話を聞き、原稿を「note」で公開した。さらに10月には追加取材もおこなう。
「インタビューを始めたきっかけは、あるイタリアンの店主が言った『ほかの人たちはどう考えているのかな』という言葉でした。最後は自分で決断するとしても、それぞれの場所でもがいている仲間の声を知ることは、明日への道標(みちしるべ)になるのではないか。ほかの人の考えを聞き、文字にして伝えることならば、自分にもできると思ったのです」
目標は1日1人に話を聞いて原稿をまとめること。
「実際には平均1.6日に原稿1本のペースになりました。毎日の更新にこだわったのは、感染者数や国内外の情勢、行政の対応や世論も、刻々と変わっていたからです」
巻末には「コロナに揺れた2020」という年表が収録されている。上段には日本と飲食関連の出来事が、下段には世界の動きがまとめられ、コロナ禍の一年を振り返ることができる。