甲子園出場がかかった地区予選の決勝戦、勝つと負けるとでは大違いとあって、選手たちの緊張感もハンパではなく、ベンチの監督にとっても、胃が痛くなるようなシーンが続く。そんな“最終決戦”の場で起きた珍事を紹介する。
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19点のリードにもかかわらず、20点目をスクイズで挙げるという手堅過ぎる作戦を用いたのが、2009年の帝京だ。
東東京大会決勝の雪谷戦、2年ぶりの甲子園を狙う帝京は、初回に1番・金子竜也の安打を足場に、2四球、1犠打を挟んで4安打の集中攻撃で一挙6点を先制すると、2回にも2点を追加。4回にはスリーバントスクイズで9点目を挙げたあと、8番・有賀ナビルの左越え2ランで11対0と突き放した。
さらに5回にも3番・平原庸多の左越えソロ本塁打が飛び出すなど、着々と加点。「雪谷には勢いがある。とにかく前半で勝負を決めろ」という前田三夫監督の指示を忠実にはたした。
都立校の雪谷は03年の決勝で、相手の二松学舎大付有利の下馬評を覆して甲子園初出場をはたしている。さわやかイメージの公立校にはスタンドも大声援を送るので、甲子園の常連校といえども、“完全アウェイ”の雰囲気にのまれてしまうこともある。
前田監督自身も、2年前の甲子園準々決勝で公立校の佐賀北に延長14回の末、敗れた苦い経験があった。接戦のまま中盤まで進み、相手側に「ひょっとしたら勝てるかもしれない」のムードが生まれることを、何としても避けたかった。
そして、19対0の7回1死三塁では、なんと、スクイズで20点目を挙げた。直前に打者が「いい加減なスイング」で空振りしたのを見た前田監督は「先のことを考えて、雑な野球をしたくなかった。一度緩めると、また元に戻すのに時間がかかる」という理由からスクイズを命じたのだ。
最速148キロのエース・平原も「エース番号を貰っているので、最後まで投げるつもりでした」と大量リードにもかかわらず、9回を投げ切った。
終わってみれば、先発全員の25安打で、3回を除く毎回得点の24対1で大勝。20点目のスクイズは、高校野球ファンの間でも「死者にむち打つ行為」「何点差あろうとも全力で戦うのは当たり前」と賛否両論に分かれた。