クリエーティブディレクターの佐々木宏氏は、開会式でタレントの渡辺直美さんの容姿を侮辱するような演出を提案していたことが発覚し今年3月に辞任した。

「日程が切迫する中、クリエーティブチーム内で意思疎通が図りやすい人を選ぶのは『必然』だと判断されてしまった」(來田さん)

 人選は実務担当者任せでも、注目が集まる開閉会式に携わるメンバーをチェックする役割が組織委幹部には求められたはずだ。

 会見で武藤事務総長は「最終的な任命責任は我々にあることは間違いないが、一人ひとりを我々が選んだわけじゃない。誘い合ってできたグループを選んだ。全体の名簿を受け取ったときに全部チェックすべきだったと言われたらそうだと思う」と説明。小山田さんが過去に雑誌などで語ったいじめ告白について「その段階では知らなかった。一人ひとりを調査するということは行われなかった」と明かしている。

 來田さんがクリエーティブチームの人選を知ったのは7月14日の報道と同時だったという。開閉会式の企画、演出の内容は聖火の最終走者や点火方法を含め、当日まで「トップシークレット」。クリエーティブチームの人選も事前に理事会などに諮られることはなかった。森喜朗前会長の女性蔑視発言を受け、3月に理事に就任した來田さんはこう悔やむ。

「せめて新しくメンバーに加わった人たちに五輪開催の意味を伝える場を設けるべきでした。佐々木さんの辞任の際にも感じましたが、オリンピックをオリンピッグと言ってしまうような感覚は、五輪ムーブメントを理解していないとしか思えない」

 五輪は単なるスポーツイベントではない。開閉会式などについても近代五輪の124年の歴史の中でどのような意味を持つのかといった深い理解を、少なくとも大会関係者は共有していなければならない。來田さんは五輪の理念よりも、「とにかく大会を無事に終わらせる」という実務が優先されてきた現実を、「勝利至上主義」に傾くスポーツ文化と重ねて見る。

「私たちは勝ち負けや結果ばかりを追いかけてしまいますが、五輪で大事なのはそこじゃない。そのことを常に肝に銘じていれば、今回の一連の事態も避けられたはずです」

次のページ 五輪本来の目的に立ち返るべきだ