しかし、同じ左上のポジションの場合、「やりたい」「やりたくない」軸で考えると我々はやりたいところにいます。栄一がいう「こうしたい、ああしたい」です。このベクトルを立てていれば、すぐに「できる」訳ではありません。前後左右するかもしれません。しかし、いずれ「できる」方へとシフトする可能性が残ります。

 本当は、誰でもやりたいことがいっぱいある。けれども、いろいろな言い訳を自分たちに言い聞かせてしまいます。失敗するのが嫌だからです。

もちろん、「できる」「できない」の軸も大事なのです。でも、ここばかりを見ていると、自分が本来持っているポテンシャルを発揮できないまま、人生が過ぎてしまうことにもなりかねません。それではあまりにももったいない。

 前回の本コラムでご紹介した大谷翔平選手に聞いてみたいことがあります。「論語と算盤」の「大丈夫の試金石」を読んで何を感じたかと。

 恐らく、自分も渋沢栄一が提唱していたように「こうしたい、ああしたい」という人生のベクトルをずっと立てていた、と答えるのではないでしょうか。

 我々はもちろん、大谷翔平のような野球はできません。渋沢栄一のように500社ぐらいの会社を設立することもできない。ただ「こうしたい、ああしたい」というベクトルを、これを立てておくことは誰でもできることであります。(渋沢健)

◆しぶさわ・けん シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役、コモンズ投信株式会社取締役会長。経済同友会幹事、UNDP SDG Impact 企画運営委員会委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。渋沢栄一の玄孫。幼少期から大学卒業まで米国育ち、40歳に独立したときに栄一の思想と出会う。近著は「SDGs投資」(朝日新聞出版)

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